フィルスの昔話②
「私が奴の弟子となったのは、幹部の一柱を倒した後くらいだったかな」
「へー!」
カルマは目を輝かせる。続きをせがむ子どものように。
「私は二番目の弟子だった。私が入った時には、すでにアリディアという魔術士の娘がいた」
「え!? アリディアさん?」
「知っているのか?」
「前に、この目のことで街で騒ぎになった時に助けてもらって……」
「そうか。偶然だな」
フィルスは小さく鼻を鳴らす。
「まぁいい。あいつの話をしても面白くはない」
「仲悪いの?」
「あいつはいつも私の性格面のダメ出しばかりしてきたからな」
「喧嘩ばかりしてたんでしょ?」
「いや。奴は喧嘩を売っても、すかして受け流す。だから大した喧嘩にはならなかった」
「ふふ、仲良いんだね」
「ただの同僚だ」
言い切るが、わずかに目を逸らした。
「あと一人、弟子がいるんだっけ?」
「……ああ。ルドラには三人の弟子がいた。三番目はルドロス。魔術剣士だ」
「その人は今どうしてるの?」
その瞬間。
フィルスの空気が変わった。
握りしめられた拳。静かな怒り。
「……奴のことはいずれ話す」
低い声だった。
カルマはそれ以上踏み込まない。
「それで、ルドラは……?」
フィルスはゆっくり息を吐いた。
「私やアリディアは、それぞれ任務に就いていた。ルドロスも妻を娶り、独立していた」
淡々と語る。
「十二年前。ルドラは単独行動中を狙われた」
空気が冷える。
「緋衣の十魔が二柱。そのうち一柱は三大魔人――天魔ヴォレア」
カルマの喉が鳴る。
「ルドラは一柱を討った。だが……ヴォレアに殺された」
沈黙。
「私は間に合わなかった」
声がわずかに震える。
「到着した時には、もう……」
その先を言わない。
怒りか、悔恨か、それとも両方か。
「フィルスは……緋眼の魔人と戦うの?」
静かな問い。
フィルスは口元を歪めた。
「私は、師の復讐に燃えるほどできた弟子ではない」
一拍。
「だが、現役の間に相対することがあれば――斬る」
その声音に迷いはなかった。
カルマはまっすぐ言う。
「なら、僕も戦うよ」
フィルスが目を細める。
「兄さんに言われたんだ。僕はきっと、緋眼の魔人と戦う運命にあるって」
拳を握る。
「兄さんも、フィルスも戦うなら――僕も一緒に戦う」
「ふっ。小僧のくせに大きなことを言う」
だが、その目はどこか嬉しそうだった。
「なら、もっと強くなれ。今のお前では足手まといだ」
その時――
ドォォォンッ!!!
地面が揺れる。
壁が軋み、窓が震える。
爆発音。
続いて、遠くから上がる悲鳴。
フィルスの目が鋭く細められる。
「……街の方角だな」
カルマも立ち上がる。
「魔人……?」
次の爆発が夜を裂いた。




