夢か
カルマはラダの森に来てから毎晩、地面に横たわり夜空の星を眺めるのが日課になっていた。
木々の隙間から覗く星は、カストリアの街では決して見られなかった数と輝きを放っている。
こんなにも空は広かったのか、とカルマは思う。
やがて瞼が重くなり、意識はゆっくりと沈んでいった。
*******
気づけば夢の中。
いつもの“回憶夢”。
見知らぬ家の中。
優しく笑いかける女。
だが今日は違う。
意識がはっきりしている。
空気の匂いも、床の硬さも、やけに生々しい。
「……いつもと違う」
思わず呟いた声が、夢の中でそのまま響く。
女の背後の窓に、視線が吸い寄せられた。
そこには、見たことのない形の建物が並んでいる。
石でも木でもない、まっすぐな箱のような家々。
規則正しく並び、空へ向かって伸びている。
「……なんだ、あれ」
この世界には、あんな建物はない。
胸の奥がざわつく。
そのとき——
「俺の記憶だよ」
「!?」
振り返ると、家の中に黒髪の男が立っていた。
「君は誰?」
「俺はお前だ」
「え……?」
顔を上げた男の姿を見て、カルマは息を呑む。
自分と同じ顔。
少しだけ大人びた、黒髪の青年。
そして、左目は——緋色。
「思い出せ。お前は忘れている」
「何を?」
「全てを」
女は何も気づいていない。
机に向かい、書類のようなものを読んでいる。
この会話は、自分たちにしか聞こえていないのだ。
「何で思い出さなきゃいけないの?」
「お前が運命を変えるために存在するからだ」
「……?」
「お前は、本当にその場所で生まれたのか?」
「僕が生まれたのはカストリアだよ」
青年は、わずかに目を伏せる。
「お前の名前は?」
「カルマ・ミラ・フィーラン」
「お前は、本当にその名前で生きてきたか?」
「え?」
「もっと短く、呼ばれていただろう」
「何を言ってるの?僕はカストリアで生まれたカルマだよ。父さんと母さんは優しくて、兄さんは強い戦士なんだ。」
「それがお前の知る真実か?」
「何が言いたいんだよ」
青年は一歩近づく。
「思い出せ。俺達の為に」
その言葉が胸に刺さる。
「確かに、その記憶は辛い。苦しい。長い。
だが必要なんだ」
そして最後に、はっきりと告げた。
「頼んだぞ……カルマ・ミラ・フィーラン」
******
「はぁっ!」
カルマは飛び起きる。
夜の森。冷たい空気。星明かり。
「……今のは……」
胸が早鐘のように鳴っている。
夢のはずなのに、やけに現実味があった。
あの黒髪の青年。
あの見たことのない建物。
「……変な夢だ」
そう呟いても、違和感は消えない。
それは“予知”でも“幻”でもない。
もっと、個人的な何か。
だがカルマは、深くは考えなかった。
ただ少しだけ——
胸の奥に、言いようのない懐かしさが残っていた。




