116.代々秘匿された魔術
「あれは……」
「なに?どういうことなの。カルマは何を話してるの?」
場外の席でリアはクレインに問いかける。
「いや、おれもよく……」
そこにヤクモがやってくる。
「お前達は知らないか?あの応徳魔術は魔創神グランの力の一つとされている術、樹木創叢だ。」
「えぇ?魔創神様の魔術?それをなんでラディールが…」
「樹木創叢は中央国家バルテミアの貴族 ベルナド家が代々、子に継承する応徳魔術だ。」
「子供に応徳魔術を継承?応徳魔術っていうのはその術者が編み出した術者だけの魔術じゃないのか?」
「そういう応徳魔術もあるってことだ。
特に魔創神グラン様の魔術の一部とされているベルナド家の樹木創叢、ガーヤック家の大地創造、グラミス家の天象創操の3家は世代毎の魔術継承がされており、非難の声が出ている。」
「なんで非難されてるの?」
「わかんないか?魔術ってのは元々は全て魔創神様の力だ。それが広く普及し、派生して今の形になってる。」
「3家はその魔術を普及させず、秘匿してきた……?」
「そういうこと。それだけの力を公開しないことに罪があるっていう意見だな。」
「でも応徳魔術ってのはそういうもんだろ?」
「まぁな。だが、魔創神様の時代から公開せずに継承を続けてきた貴族の家っていうところに引っかかる者がいるんだろうな。」
「ラディールっておぼっちゃんだったんだ。」
カルマは警戒しながら剣を向ける。
「だからおまえは俺の相手に立候補したのか?
応徳魔術なしでの実力をみんなに認めさせるために」
「うるさい!お前に何がわかる!」
ラディールが手を大振りに払うと、カルマの足元から蔦のような植物が大量に生え、カルマを絡め取ろうとする。
カルマはその蔦から逃げるように勢いよく走り出す。
それを追いかけるように次々と生えてくる植物がカルマに迫る。
「なんで隠した!その魔術もお前の力だろ!」
カルマは剣に炎を灯し、木々を切り裂きながらラディールに近づく。
「うるせぇんだよ!おまえは!」
カルマはラディールにあと一歩のところで地面から生えてきた植物に巻きつかれ、身動きが取れなくなる。
「お前は逃げたんだ。自分の運命から」
カルマはラディールに顔を近づけて問い詰める。
「じゃあどうすればいいっていうんだ!この魔術が忌み嫌われた力でも堂々と使えってのか!?」
「そうだよ。お前達には教えてやらねーって鼻で笑ってやればいいじゃん。」
「そんなこと……」
ラディールは顔を上げてカルマを見る。その左眼は赤く光っている。
それを見てラディール気付かされる。自分が隠してきたこの力は、この目に比べればちっぽけなものだったのではないかと。
「もしそれができないなら……」
カルマはわずかな隙間で体を動かし、魔剣フレイアで植物を切り裂き脱出する。
そして、カルマはラディールの前で剣を構える。
「さっさとその魔術を公開して、ベルナド家の歴史に終止符を打つことくらいしかできないだろ?」




