平和に殉じた民
交渉は決裂した。
戦争が始まるのだ。
国の代表である一人の男はため息交じりに側近へ告げた。
「開戦だ」
男の側近は静かに頷いた。
「役目を果たしてまいります」
男は頷き、側近が去り独りになると拳銃を取り出して自らのこめかみを撃ち抜き命を絶った。
男の側近はただちに自らの部下達に開戦を告げた。
それを聞いた部下達は側近と同じように「役目を果たしてまいります」と言って立ち去った。
独りになった側近は拳銃を取り出し自らのこめかみを撃ち抜き命を絶った。
部下達はさらにその部下に開戦を告げて命を絶った。
その部下はさらにその部下に、さらに、さらに……。
そうして、最後には国中の民にそれは伝わった。
そして、皆が共に命を絶った。
皆、心は一つだった。
自分達は平和を愛する人間なのだ。
戦を始めるような低俗な輩と争いたくない。
争ってしまえば、それは即ち自らの価値も下げてしまう。
それ故に皆が命を絶ったのだ。
愚かな敵国の者達は国民全員が心中したことを理解出来なかった。
そして、永遠に理解することはないだろう。