[第9話] 証明
「ここに住めって言われても······」
大男のバグがしてきた提案、それは僕たちがこのお家で住むということ。
それはつまり、大男のバグといっしょに住むということでもある。
たしかに、ここに来るまで大男のバグは僕たちを殺そうとはしなかった。気絶はさせられたけど、起きるまでベッドの上で寝かせてくれるくらいの優しさはあった。
――でも、だからといって、本当に信用できるの······?
相手はバグ、人を襲うのが当たり前だなんて言っている存在だ。今まで殺されなかったからといって、これからも殺されない保証はない。
やっぱり、いっしょに住むわけにはいかない。
「まぁ、お前らはこの提案を断ることはできねぇがな」
「······どういうこと?」
「なぁに簡単な話さ。バグは人類共通の敵、そしてお前らは半分バグだ。街に戻ったら最後、すぐに処刑されるか、良くて一生牢屋の中だろうよ。死ぬことを免れても、お前らの父さん母さんには一生会えず、二人揃って薄暗くて冷たぁい部屋で死ぬまで過ごすんだ」
これ見よがしに威圧的な気配を放ち、大男のバグが凶悪な笑みを浮かべて僕たちを見下ろしてくる。
――僕たちは、殺されるの······?人類に、そしてバグとして······。
お父さんとお母さんにも、もう会えないの······?もうお家には帰れないの······?
嫌だ、嫌だよ······。そんなの、そんなの······っ!
「――なんで······」
「ん?」
「なんで、私たちが半分バグだって言い切れるの······!?」
――そうだ、そうだよ。大男のバグは、僕たちの魔力判定の結果を見たわけじゃない。
なのに、僕たちを半分バグだなんて言えるのはおかしい······おかしいよ······。
「なら、証明してやろう。半分バグなお前らは、バグにしかできないことが出来るはずだからな」
「――バグにしか、できないこと······?」
「バグってのはな、お前ら人みたいに定まった肉体を持ってないんだ。だから、心臓部分にある『核』さえ壊されなければ、周囲の魔力を使って例え腕が千切られようが首を刎ねられようがいくらでも再生出来るんだよ。見とけ。」
そう言った直後、大男のバグが僕たちの目の前でいきなり自分の腕を吹き飛ばした。
「な、なにやってるの!?」
そのいきなりの行動に驚きを隠せず、アイの大きな声が木造の部屋の中に響く。
校長先生の攻撃をいくら受けても傷つかなかった体が、自分の手で初めて傷つけられた。
「落ち着けって。再生出来るって言っただろ?ほら」
まだ驚きをおさえられない僕たちを差し置いて、大男のバグが何でもなかったかのようにあっさりと無くなった腕を元通りにしてみせた。
その余裕の態度と表情に、思わず言葉を失ってしまった。
このバグは、明らかに規格外だ。姿を変えて人類の街に侵入出来るし、戦いもめちゃめちゃ強いし、こんなに簡単に体を再生することだってできる。
こんなに色んなことが出来るのなら、僕たちが半分バグだなんて、簡単に分かっちゃうものなのかな······?
このバグが言っていることは、本当なのかな······?
「ってことで、これをお前らにもやってもらう」
――いや、まだわかんない。僕たちが半分バグだと決めつけるにはまだ早い。
やってみなきゃ、わかんない。今さっき大男のバグがやったことと、おんなじことをやってみないと······
「って、僕たちの腕も吹き飛ばされるの!?」
「いやいやいや流石にそんなことはさせねぇよ!まだお前らは素人だし、バグは神経がないから痛みは感じねぇけど、お前らはちゃんと痛いからな。ちょっとした切り傷を治してもらうだけだ。――そら」
大男のバグが指を上げた瞬間、シュッ、と何かが腕をかすめて行った。
風を感じたところを見れば、服といっしょに皮膚が裂けて血が出ている。
これを、治せということだろう。
「やり方は簡単さ。お前らの周りには大量の魔力があるんだ。それを感じて、切れたところに集めるイメージだ」
「僕たちの周りの、魔力······」
あたりを見渡しても何も見えない。だから肌で、その感じたことのない未知のエネルギーを見つけるために意識を集中させる。
集中、集中、集中――
「「――あった」」
感じた。目で見えない『何か』がたしかにそこにある。
――これが、魔力。あったかいような、冷たいような、そんな言葉では言い表せない感覚がする。
魔力を感じることができた。それなら次だ。
この謎のモノをかき集めるイメージ。かき集めてかき集めて、それを傷口に持っていく。
ゆっくり、かき集めた魔力たちが飛んでいかないように、そーっと――。
そのまま時間をかけて、無事傷口に到着した。
しかしまだ終わってない。次は傷口を埋めるように魔力を流し込む。魔力が飛んでいかないように、そーっと、そーっと――
「――傷が、塞がった······」
「······私も」
成功、した······。
成功してしまった······。
「これで分かっただろう?お前たちが、半分バグだということが」