[第3話] 迷子の二人組
登校初日から道に迷った僕たちは、とりあえず来た道を戻ることにした。
家を早く出過ぎたおかげで、時間の心配はあまりなかった。
「ごめんね、アオ。私がどんどん歩いていっちゃったから······」
今のアイは、さっきまでの明るいオーラ全開の時とは打って変わり、家の毛布よりももふもふでやわらかい猫耳と、すべすべと触り心地のいい毛並みの細長いしっぽをたらんと垂らし、しゅんとした顔をしている。
感情を表すそれらが、アイが落ち込んでいることを物語っていた。
「ううん、だいじょうぶだよ。僕も道のことあんまり考えてなかったから······」
僕だって、アイと学校に行けるワクワクで頭がいっぱいで、道のことを考えられる余裕なんてなかった。
お互い様だ。
「へへ、それじゃあ私とおんなじだね!」
「うん!」
すぐに元気を取り戻したアイが、耳としっぽの元気も取り戻してニコッと笑う。
アイも元気になったことだし、あとはこのよくわからないところから脱出するだけだ。
「とりあえず、知ってるところまで戻れたらいいんだけど······」
「おや、あんたたち。こんなところで何してるんだい?」
ふと、聞き覚えのある声がかかる。
よくお母さんにお願いされておつかいに行っているから、その声には聞きなじみがあった。
それに、ついさっきも聞いた。
僕たちの『知ってるところ』の店主――
「「「八百屋のおばちゃん!」」
「お、おう···」
ちょうどいいところにやってきてくれた。
おばちゃんのところの八百屋さんなら、練習の時にも通って「登校に慣れないうちは目印にするのよ」とお母さんに言われた。
そこからなら、学校に行ける。
「あのねおばちゃん、お願いがあるの!」
「僕たちを、おばちゃんの八百屋さんまでつれていってほしいの」
「······ははーん、なるほど。あんたたち、道に迷ったってわけかい」
「うっ」
「アオキ君のお父さんが言ってたよ。『あいつら浮ついて迷うと思うから、その時は連れ戻してやってくれ』ってね」
「そ、そこまで······」
いつも「ははは!」って笑ってばっかで気楽な人だけど、僕たちのやること考えることは全部お見通しなようだ。
お父さんにそんな力かあったとは······。
「ほら、おいで。私の店まで連れてってやるよ」
「あ、ありがとう」
まぁともかく、これで学校まで行くことができる。
心の中でお父さんにありがとうを言って、おとなしく八百屋のおばちゃんについていくことにしよう。