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ジュウトハチ ―少女舞闘綺伝―  作者: 柊 太郎


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カノントフミ その六

「してくれるのね?」

 と仝香(ともか)が言う。

乾分(こぶん)に!」

 と、美横(みお)が続ける。

 大輔は頭を抱えた。

「あーもう、見てないで、なんか言ってください(しのぶ)さん! (そう)さんも!」

「なりたいというのなら、ならせてあげれば良いのでは?」

 信が無邪気に答える。

「特に不都合は無いと思います、大輔さんなら何か道義的な問題を起こすという可能性も低いですし、いやしかし、世間的な目というものもあるか……しかし」

 荘は荘で、ぶつぶつと言いながら考え込んでしまう。

「カノンさんも! ……あれ、でも、才蔵さんから聞いてた名前は、確か由利(ゆり)鎌之(かまの)って……」

 カノンは、ひときわ小さな声で何かをつぶやく。

「……………………」

「え? なんて?」

「……その呼び方……カノンは嫌い……」

 明らかに地雷を踏んでしまったようだ。

 一瞬、大輔の目にはカノンの背後にどんよりした背景線が浮かんだように見えた。

「あっごめんなさい……カノン……さん?」

「……それならいい」

 カノンのどんよりとした雰囲気が少し弱くなる。

「ねーねー! こっちの話は!?」

 美横がじれた声をあげる。

「アッすいません」

 状況はどんどん混沌さを増していった。


「……んで結局、どーなったの?」

()一時間ほど説得して、どうにか帰っていただきました……はは……」

 大輔の顔には、さらなる疲れの色が浮かんでいた。

 ここは大輔の部屋。 

 大輔は机の前の椅子に座り、伊三美はフローリングの床に直に座っている。

 

 (あかね)仝香(ともか)(あずま)美横(みお)の二人に対し、乾分(こぶん)ではなく、まずは友達から――いずれ力を貸してもらう時がくるから、それまで待っていて欲しい――それから、おかしな誘いがあっても断ること――それらを必死で言い聞かせ、どうにか納得して帰ってもらった――といったような顛末を、大輔は伊三美に話した。

 護衛役は伊三美に交代し、信と荘の二人は待機用の隣のマンションに戻っていた。

 カノンこと由利(ゆり)鎌之(かまの)も、霧隠(きりがくれ)才華(さいか)に到着の報告をしに行った。

 今は大輔と三好伊三美(いさみ)の二人だけだ。

 

「まあ、面倒っちゃ面倒だったけど、その程度で済んだんなら良かったな――ん、どした? 浮かねー顔して?」

 大輔の顔に浮かぶ、疲労以外の何かを、目ざとく感じ取った伊三美が問いかける。

「ええと、ここ数日は色んな事があり過ぎて、ゆっくり考える事もできなかったんですが――落ち着いて考えてみると、なんていうか、複雑な気持ちで」

「何がさ?」

「正直なところ、最初は浮かれてました……僕の周りに現れる女性(ひと)たちは、みんなタイプは様々だけど、それぞれが何ていうか……魅力的で、しかもみんなが僕に好意を持ってくれてて……でも結局、その好意は、僕自身の魅力じゃなくて、宋江の能力(ちから)によるものだったわけで……」

「まあ、そうかもな」

「それに、十勇士や八犬士の皆さんが好意を寄せてくれていたのも、僕じゃなくて、僕の中にいる別人――真田幸村と金碗大輔孝徳かなまりだいすけたかのりに、だったわけですから」

「納得がいかない、ってわけか?」

「そうじゃないんです、でも、みんなが命懸けで僕を守ってくれて、時には犬山さんのようにひどい傷を負ってまで……僕には、それだけの価値があるんでしょうか? 真田幸村も、金碗大輔孝徳も、そして宋江も抜きだったら……この僕自身に……」

「うーん、そうだなー」

 伊三美は腕組みをし、しばし考え込む。

 

「……アタシはまあ、良かったと思ってるよ、幸村の魂が宿ったのが、あんたみたいな(ヤツ)でさ」

「そうでしょうか?」

「そうさ――会う前には、もしもクソ野郎だったらどうしよう、とか、そんな心配もあったけど――いざ顔を合わせてみりゃ、まあ良いやつだったし、それにけっこう可愛いし、さ」

「おだてないでください」

「本当だよ、ウソじゃない」

 伊三美は立ち上がり、大輔へと近づく。

「何ていうかな……貴方を見ていると……すごく、変な気持ちになる……」

 伊三美の口調は、さっきまでとは別人のようになっていた。

 言いながら、伊三美は椅子に座った大輔のすぐ前まで歩み寄り、(ひざまず)く。

 伊三美の両手が、大輔の膝の上に置かれる。

 その顔はひどく上気し、目は潤んでいた。

「伊三美さん!?」

「貴方に全てを捧げたくなるの……貴方の思い通りに……何でも……したいこと……して良いんだよ?」

「そんな……まさか……!」

 能力(ちから)の暴走――という言葉が、大輔の脳裏をよぎる。

「ストップ! ダメです! 正気に戻ってください!」


 大輔は両手で伊三美の両手を包むように握る。

 一筋の涙が、大輔の頬をつたって落ちた。

「お願いです……戻ってください……元の伊三美さんに……戻って……」

「ぷっ」

 伊三美が吹き出す音が、大輔の耳に届いた。

「え?」

 伊三美は肩を震わせて笑っている。

「……な? これで本当に、アタシに何でもさせるような奴だったら、あたしも(あるじ)として仕えたりしないよ」

「良かった……本当に良かった……」

 大きく息をつく大輔に、伊三美が言う。

「ほら、からかわれたってのに、自分より相手の心配してる……お前は『人の良し悪しが分かる』って、前に言ってたよな? アタシにだって人の良し悪しは分かるさ、お前ほどじゃないけどな……お前は良いやつだよ、間違いなく」

 大輔は涙を拭う。

「アタシの演技も、中々のもんだったろ?」

「……悪趣味ですよ、いくらなんでも」

(わり)(わり)い……んじゃ改めて、特技は金剛身――心体能力と強度の強化、十勇士、三好伊三美だ、これからもよろしくな」

「それって……」

「あーもう、(みな)まで言わすなよ! 主として認めてるってことだよ、とっくの昔にな」


「……ちょうど良い機会だから、話して置くべきかもしれねえな、アタシの金剛身の弱点を」

「あるんですか? 弱点なんて」

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