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ジュウトハチ ―少女舞闘綺伝―  作者: 柊 太郎


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カノントフミ その四

「大輔さん、この二人……?」

 (しのぶ)の問いに大輔が答える。

「……感じます、魔星です!」


「しょうがないにゃー……いくよ!」

 美横(みお)はそう言うと走り出した。

 急速に大輔たちの方へと距離を詰めて来る。

 (しのぶ)(そう)が身構えたその瞬間。

(跳んだ!?)

 大輔は上を見上げる。

 美横(みお)は信じがたい跳躍力で、大輔たちの頭上にいた。

(いや、違う、駆け上がった!?)

 美横は何もない空中を、まるで足場があるかのように駆け上がっていた。


 美横は中空、大輔たちの頭上で立ち止まり、言う。 

 「(はね)持つ虎のように! 宙を自在に駆ける! それがあたしの能力! 名付けて跳梁跋虎(フライング・タイガー)!」


(しのぶ)!」

 (そう)が叫び、信の方へ向き直ると両手を組み合わせる。

 信は頷くと、荘へ向かって走り、荘の組んだ手の上に足を掛けた。

「ふんっ!」

 荘は渾身の力で組んだ両手を跳ね上げる。

 それにタイミングを合わせ、信は跳躍した。

 美横のいる高さまで跳躍すると、いつの間にか手にしていた半棒で、空中の美横へと打ちかかる。

 美横は空中で身を捻って後転し、際どい所で信の一撃を(かわ)すと、地面へと降り立った。

 同時に信も着地する。

「あっぶなー、仝香(ともか)姉さん!」

 美横は仝香(ともか)へと呼びかける。

「……やっているわ、もう既に」

 ど、仝香が応えた。

 仝香は、腕を組んで立ち、最初の位置から微動だにしていない。

 ……だが。


(……これは!?)

 荘の鋭い目は、自分たちの周囲にいつの間にか張り巡らされた()()を捉えていた。

 肉眼では、ぎりぎり見えるか見えないかというぐらいの細い糸。

 いや、糸ではない。

(髪の毛か!)

 荘の考えを読んだかのように、仝香(ともか)が口を開く。

「気をつけて、私の髪の毛はすごく強靭(つよ)いの……迂闊に動くと怪我をするから……美髯公(びぜんこう)と呼ばれた初代から受け継いだ、これが私の能力(ちから)美髯万丈ブレイブ・アンド・ビアード……もっとも、私が操るのは、髭じゃなく、髪だけど」

 まずいな、と荘は思った。

(……私の能力との相性が悪すぎる!)

 犬川(いぬかわ)(そう)の能力、「縮地(しゅくち)」は、一種の瞬間移動だ。

 なぜそれができるのか、詳しい原理は本人にも分からない、ただ、赤ん坊がひとりでに歩き方を覚えるように、ある日、気が付いた時には、荘もひとりでに()()ができるようになっていた。

 荘の「縮地(しゅくち)」にはもちろん弱点もある。

 その一つが、何らかの人や物が、既に存在する場所には移動できないという点だ。

 そのため、いくら近い場所でも、目視で障害物が無いことを確認できない場所へは「縮地(しゅくち)」で移動することはできない。

 おそらくは無意識のうちに、精神が、あるいは肉体が、障害物を避けているのではないか、荘はそのように推測していた。

 そして今のように、周囲に無数の髪の毛が張り巡らされているとなれば――。

(この状況……私の縮地は、使えない……だが!)

 不利な状況にあってなお、荘の闘志は衰えることを知らない。

 不敵な笑みを浮かべ、特殊警棒を振り出すと、構えを取り直す。

 

「髪の毛を操る、か、以前に清海(せいか)さんが戦った奴とは、また違うタイプだな」

 と荘が言う。

「跳ぶのが得意な虎の人も二人目です、これも少しタイプが違いますが」

 と信が応じた。

「……私の髪が動きを封じ、美横が空中から攻撃する、名付けて天雷地朱(てんらいちしゅ)の陣! あなたたちに(しの)げるかしら?」

 と、仝香が自信に溢れる口調で言う。


「オッケー、んじゃ、いっくよー!」

 美横が再び、大輔たちの上空へと駆け上がる。

「上は、私が」

 信はそう言うなり、宙へと飛び上がった。

 そして一見、何もない場所を蹴り、さらに上へと飛び上がる。

(あたしと同じ能力!?)

 美横の目が驚愕に大きく見開かれる。

(いや、違う、こいつ……!)

 信は、仝香が張り巡らした髪の毛の上に立っていた。

 おそらくは靴底を何かで強化してあるのだろう。

 細く強靭な髪の毛の上で、靴底に全体重をかければ、普通の靴ならば、すぱりと切れてしまう筈だ。

 だが、それ以上に驚くべきは信の身体の平衡感覚だった。

 不安定、どころではない、細い髪の毛の上に立ちながら、まるで地面の上にいるように、その姿勢は安定している。

 信はにっこりと微笑む。

「助かります、わざわざ足場を作ってくれるなんて」

「……やるじゃん」


 信は細い髪の毛の上、まるで地面の上にいるように滑らかな足の運びで美横に迫る。

 身を沈めつつ、手にした半棒で片手突きを繰り出す。

 以前に(チャン)を仕留めた彩霞流(さいかりゅう)棒術、朝露(ちょうろ)の突きだ。

 だが、信の突きは、美横の靴底で受け止められていた。

横蹴り(ヨプチャギ)……!」

 横蹴り(ヨプチャギ)、身体の側面を相手に向け、足刀を真っ直ぐ突き出すように蹴る、テコンドーの基本的な蹴り技の一つだ。

 美横は信の突きに合わせる形で横蹴りを繰り出し、靴底で信の突きを受け止めていた。

「どう? あたしの靴も特製ってわけ」

 美横は横蹴り(ヨプチャギ)を放った左足を上げたまま、ゆっくりと頭上まで足の先を振り上げ、そして半月を描くようにゆっくりと外回りに振り下ろして見せる。

 驚くべき股関節の可動域と柔軟性だ。

 その間、体幹にはわずかのブレもない。

「――身体も温まって来たとこだし、本格的に行こうか」


「こちらも、始めましょうか」

 下では仝香が動き出していた。 

 腕組みを解き、ゆっくりと荘と大輔の方へ歩み寄る。

 周囲に張り巡らされた髪の毛は、依然としてそのままだ。

「……ははっ」

 突然、大輔が笑い声を漏らす。

 十勇士がもう一人来るって聞いてたけど、本当に絶妙なタイミングだな。

 それに――。

才華(さいか)さんから聞いてた通りだ……)


 いつの間にか、仝香の背後に、もう一人、少女の姿があった。

 その姿は、全身黒ずくめの服装に覆われていた。 

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