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ジュウトハチ ―少女舞闘綺伝―  作者: 柊 太郎


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カノントフミ その三

 真田大輔に賞金がかけられてから三日が過ぎた。

 昼下がり、十勇士と八犬士が共同で借りているマンションのリビングでは、霧隠(きりがくれ)才華(さいか)が、パソコンを使って通話をしていた。

 通信にはVPNを用いたうえ、独自のソフトウェアでパケットの暗号化を行っている。

 通話の相手は、十勇士本部の穴山(あなやま)だ。

「――それで、その後の動きは?」

 インカムを付けた才華が、画面にいる穴山に問いかける。

 通信の暗号化の強度を上げた為だろう、穴山の返事が返って来るまでに、若干のラグがあった。

「ネット上では特に目立った動きはありません、監視用のクローラをいくつか走らせていますが――」

 

 結局のところ、ネットに上げられた大輔の写真と賞金の情報は半日ほどで削除され、掲載されていた闇サイトそのものも消失していた。

 写真が一体何人の目に触れたのか、現状ではそれすらよくわかっていない。

「念の為、対策として複数の欺瞞(ぎまん)情報を流してあります、同世代による(たち)の悪い悪戯説から、オカルト系、電波系、様々なパターンのものを取り混ぜて――一度ネットに流れた情報を完全に消し去る事は、どのみち不可能ですから」

 もっともらしい嘘から、荒唐無稽なデマまで、偽の情報を溢れかえらせて、全ての真偽を不確かなものにしてしまおう、そういう作戦だった。

「そうだな――効果の程は分からないが、やっておくにこしたことはない」

「大輔様の顔写真についても、AIで加工した偽物を十数パターン流してあります」

「流石だな――メディア対策は?」

「メディア対策の方は八犬士の犬坂(いぬさか)さんが――今回は対象が未成年と言うこともあり、ニュースとして取り上げない事については、テレビ・新聞・雑誌、何処も協力的です」

「報道の抜け駆けにはくれぐれも注意してくれ、自分だけ良い目を見ようとする者は、いつでもいるものだ」

「了解です、その点は引き続き監視を続けます――それにしても、いったい何の為にこんな事を――」

「あの賞金をかけた者も、あれを見て、本気で大輔様を(さら)ってこようとする者が出るとは思っていないだろう……第一、どこへ連れて行けば良いのか、どうやって賞金を受け取るのかすら書いていなかった」 

「だとすると、一体何が目的だったんでしょう?」

 

 一瞬の沈黙の後、才華は自分の推測を口にする。

「……呼び水」

「呼び水?」

「おそらくはな、全部で百八もある魔星だ、そのすべてが目覚めているとは限らない、あの写真を見たことがきっかけで、新たに大輔様の所へ向かおうとするものが出るもしれない」

 穴山が話題を切り替える。

「ああ、それから、エンギュイエン三姉妹について、身元の確認が取れました、元シールズという情報に間違いはないですね、根津さんが現地に出向いて、この数年以内に三姉妹に接触した人物を調査中です」

「その線から洗っていけば、コペル・アルバと名乗った男の正体も――」

「はい、まるっと明らかにしてみせます」

「任せた、頼りにしているぞ」

「おまかせください! 穴山のアナは分析(アナライズ)のアナです!」


 同じ日、大輔の通う高校。

 放課後、大輔は犬塚(いぬづか)(しのぶ)犬川(いぬかわ)(そう)の二人に伴われて校門を出た。

「……なんだかあれから、何か月か過ぎたような感じがしますよ」

 大輔が帰宅し、再び学校へ通い始めて以降、校内でも特に事件は起きていなかった。

 相変わらず手紙やら何やらの方法で大輔へアプローチを仕掛ける女子生徒は多かったが、(しのぶ)(そう)の二人によって巧みに受け流されている。

 とはいえ(しのぶ)(そう)の誘導に従って、休み時間ごとに構内の目立たない場所を転々とするのはそれなりに苦労も多く、大輔には、ほんの数日が数カ月の長さに感じられていた。


 裏道を歩いている途中、(しのぶ)(そう)が突然立ち止まり、大輔の前後を挟むように立つ。

「出てこい」

 荘が路地へ向かって声をかけた。

  

「こんちわ! あんた……真田……大輔? そうだよね?」

 大輔たちの前に、他校のものらしい制服を着た少女が一人、路地から姿を現す。

「あたし、(あずま)美横(みお)(かみなり)と書いて“あずま”、美しいに横で“みお”、っていうの」

 少し赤みがかったベリーショートの髪。

 きりっとした目元と眉で、猫を思わせるのボーイッシュな顔。

 身長は百六十センチ台の半ばくらい。

 秋もだいぶ深まって来た頃というのに、上着は着ずにワイシャツで、下にはTシャツを着ている。

 スカートの下には黒いスパッツを履いていたが、そのスパッツの脇には、羽が生えた虎の絵が入っていた。

「ちょっと個人的に話がしたいんだけどさ、お供のお二人さん、ちょっと外してもらえるかなー?」

「断る」

 間髪を入れずに(そう)が言った。

「えー、めんどくさー、あんたの意見は聞いてないんですけどー?」


「話をしたいだけです、少しだけ」

 大輔の後ろからも声がかかる。

 こちらは伊三美と同じくらいの長身、おそらくは百八十に近い、黒いブレザーの制服、切れ長の目をした整った顔立ち。

 だが、何よりも目を引くのは、その美しい黒髪だった。

 腰まである、艷やかなストレートの黒髪は、前髪も後ろも綺麗に切りそろえられている。

「私は(あかね)仝香(ともか)、朱色の朱で“あかね”、(おなじ)に香ると書いて“ともか”、お会いできて嬉しいです、真田……大輔さん」

 仝香(ともか)は大輔の方へゆっくりと近づきながら言う。

「お供のお二人が邪魔をされるというのなら、力ずくでも、ということになりますが」

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