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ジュウトハチ ―少女舞闘綺伝―  作者: 柊 太郎


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アキラトリッカ その十四

 表通りから館の正門へ続く道を、歩いてくる姿が見えた。

 黒い女、伊三美が最初に感じた印象はそれだった。

 頭にはターバン状に巻かれた布、顔も覆われ目だけが見えている。全身もゆったりした布で覆われ、そのすべて黒い布だった。

 そして目の色はエメラルドを思わせる緑色だ。

 その目からは、何の感情も読み取れない。


「『千夜一夜物語アルフ・ライラ・ワ・ライラ』からのお出ましかよ」

 伊三美は()えて軽口を叩く。

 土壇場(どたんば)でも、いや土壇場であるからこそ、少しばかりのユーモアと余裕を失わないやつは強い。たとえそれが空元気の(たぐい)であってもだ。

 過去の経験から、伊三美は敢えての軽口を叩いて見せた。

「北アフリカ……トゥアレグあたりの民族衣装のようにも見えますね」

 伊三美の軽口に六花が答える。

 良い兆候だ、伊三美は思った。この息が詰まりそうなクッソデカい殺気を真っ向から浴びてなお、あたしの軽口に返すだけの余裕が六花にはある。

 念の為、伊三美はもう一押しする。

「口調が(かて)えよ、六花ちゃん」

 六花は一瞬、はっとした表情(かお)を見せ、すぐに口元を緩める。

「でしたねぇ、あざまし〜」

 六花は軽く首を振り、肩を揺する。全身から余計な力みが抜けた。

 これでいい、伊三美は向かってくる黒い女に意識を集中する。

「ちょっとばかり、しんどそうだが……」

「やるしか、ですよねぇ」

 黒い女からの圧が高まる。

 伊三美たちとの距離は既に数メートルほどまで近づいていた。


 伊三美と六花の間を、(ごう)、と一陣の黒い突風が吹き抜けた。

「な……!?」

 黒い女の姿は、既に伊三美と六花の背後にあった。

 黒い女は、中心(まなか)千通(ちずる)を背後に隠し、二人を守るように立つ清海(せいか)へと近づく。

 清海を値踏みするように見つめ、黒い女は呟く。

「お前は、少し面白そうだが――残念だ、時間が無い」

 再び、(ごう)、と黒い風が吹く。

 女の姿は、既にそこには無かった。


 館の中、エンギュイエン三姉妹と犬川(いぬかわ)(そう)の闘いが続く部屋へ、霧隠(きりがくれ)才華(さいか)が猛然と飛び込んでくる。

 腕に才華の手裏剣を受けたリル・セブンは、舌打ちしつつ姿を消した。

 才華はそのまま脇目も振らず、大輔の元へと駆け寄る。

「……!」

 才華は床に膝をつき、無言で大輔を抱きしめた。

「才華……さん……」

 大輔から身体を離し、才華は言う。

「詳しい話は(のち)ほど……」

 大輔を見つめる才華の背後に、不意にセブンが姿を現す。

 大輔は警告の叫びをあげようとするが、間に合わない。

 だが、セブンの背後からの一撃が当たる寸前、才華は振り向き、セブンの手首を掴んで止める。

「我が(あるじ)を狙ったその罪……」

 才華の瞳に氷の冷たさが宿る。

 セブンの右手首を掴んでいる才華の左手の力が増してゆく。

 ぎりぎりと手首を絞め上げられ、セブンの顔に苦痛の色が浮かぶ。

 耐えきれずに、握っていたスラッパーを取り落とした。

 才華の空いている右手には、いつの間にか、短い剣のような武器が握られていた。

 時に武器として、時に道具としても使われる、苦無(くない)と呼ばれる忍びの道具だ。

万死(ばんし)(もっ)て償え!」

 才華の苦無による突きが、セブンの胸元目掛け繰り出される。

 セブンも空いている左手で、腰の後ろからナイフを抜き、かろうじて突きを受け止める。

 才華がセブンの手首を掴んだそのままの状態で、凄まじい速さのナイフによる闘いナイフ・ファイティングが始まった。

「こっ、殺さないで!」

 大輔はそれを言うだけで精一杯だった。

「心得ました!」

 激しい刃の応酬を繰り広げながらも、才華は返事する。


 才華とリル・セブン、両者の闘いは拮抗している。

 才華が利き腕である右手に苦無を握っているのに対し、右手を才華に押さえられたセブンは左手でナイフを使っていた。

 無論、セブンも左右どちらの手でも使えるように訓練してはいたが、利き腕ではない左手は、右手より若干動きが劣る。

 一方で才華は、相手を殺さずに制圧しなければならないという制約を課せられていた。そのため首の動脈や心臓などの、一撃で致命傷になる個所は避けざるを得ない。

(さっきは、仕留めるつもりの一撃を止められた……殺すぐらいのつもりで丁度良い、とも思うが……万が一ということもある……)

 細かい斬撃を繰り出し、少しづつの出血を強いて、相手の体力を削り取るしかない、才華はそう考えた。

 互いに相手の突きを自らの(やいば)で受け、時には(かわ)し、白刃(はくじん)の応酬は更に激しさを増していく。


 同じ部屋の一方では、犬川(いぬかわ)(そう)とリル・ツー、ファイブの闘いが続いていた。

 当初は一人で三姉妹を圧倒していた荘だったが、ここへきて動きが鈍り始めている。

「どうした? 息が上がってるぞ?」

 ファイブが荘を煽る。

(……くそ、流石はシールズだ)

 八犬士としての鍛錬を日々欠かしたことのない荘だったが、それでも現役の軍人、それもシールズが相手では、持久力で負けるのも無理はなかった。

 しかも、過去に類のないほど、縮地(しゅくち)を連続で使っている。疲労の色が徐々に荘の顔に現れ始めていた。

 リル・ツーとファイブ、二人が同時に姿を消す。

(止まるな、動き続けろ……!)

 荘は次の出現位置を瞬時に予測し、縮地を使う。

 ファイブが現れた場所に荘が警棒を打ち込む。 

 が、逆に打ち込んだ腕ごと、ファイブにキャッチされてしまう。

「捕えたぜ」

 背後に姿を現したリル・ツーが、荘の頭をめがけスラッパーを振り下ろす。

 しかし、スラッパーが荘の頭に当たることはなかった。

 荘とリル・ツーの間に割って入った犬塚(いぬづか)(しのぶ)が、半棒を使ってリル・ツーの打撃を受け止めていた。

「間に合いましたね」

「すまない、助かった」

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