アキラトリッカ その八
地上の侵入者達が呆気に取られる中、ヘリは旋回し、再び館の上空へと飛来した。
屋根の上、数メートルの高さで停止した状態、いわゆるホバリングした状態となる。
ヘリのローターが発生する強烈な吹き下ろしの風、ダウンウォッシュが周囲の人間に襲いかかる。
ちょっとした台風並みの強烈な風だ。
「くそっ!なんだってんだ!?」
強風の中、ヘリを見上げた孫は、ヘリの側面のドアが開き、人影が次々と飛び降りるのを見た。
一人、二人、三人……三人までは屋根の上に飛び降りたが、最後に飛び降りた大きな人影は、まっすぐこちらに向かってくる。
「避けろ!お前ら!」
孫は引き連れてきた男達に向かって警告の叫びを上げた。
大きな人影は空中で何かを放り上げると、前庭の真ん中に着地した。
地響きと共に、大きな衝撃音が、周囲にいた人間の耳を打つ。
片膝をつく姿勢で着地したその巨大な人影は、ゆっくりと立ち上がり、言った。
「大丈夫でした?六花さん?」
十勇士、三好清海だ。
そして放り上げられたのも、やはり人だった、空中でくるくると回転して華麗な着地を決めたその人物は、スカートの裾を軽く払いながら言った。
「あざましー、清海さん、大丈夫っすー」
こちらも十勇士、望月六花である。
「清海さん、あれ……」
六花は、館の玄関の前で倒れている男達と跪いているトルベリーナの姿を清海に指し示す。
清海は頷き、ゆっくりと侵入者たちに向きなおると言った。
「さて、皆さん、ここはひとつ、穏便にお引き取りを願えませんか?」
ヘリから降ってきた巨大メイドとギャル女子高校生という前衛的にもほどがある組み合わせのコンビに呆気にとられていた侵入者たちは、孫の一喝で正気を取り戻す。
「めんどくせぇ、やっちまいな!」
侵入者達は一斉に清海と六花に襲いかかった。
自分めがけて一斉に殺到しようとする男達を前に、六花は右手を広げて前に出し、言った。
「ちょっと待った!」
気圧されて、男達の動きが止まる。
「んー、じゃあウチの忍法、見せちゃおっかなー……準備はおけ?」
六花は右手を上げ、人さし指を伸ばし、男達の一人にまっすぐ向ける。
いわゆる指鉄砲のポーズだ。
「ばん!」
指を向けられていた男は、もんどり打って後ろに倒れる。
状況を理解できないまま立ち尽くす男達の、次の一人に六花は狙いを定める。
「ばーん!」
次の男も同様に、後ろに吹き飛ばされるように倒れた。
残りの男達は、怯んで後退りを始める。
「この女、デカいぞ!気をつけろ!」
「マジで、でっけえな!こいつ本当に女かよ!?」
「いくらデカくても所詮は女だ!ビビるな!」
清海を取り囲んだ男達が、口々に言ってはいけない言葉を口にする。
勇を振るって最初に向かって来た男の顔面を、清海は無造作に掴んで動きを止めた。
心なしか、笑顔が硬い。
「言っても分からない方たちには……」
強烈な握力で顔面を締め上げられた男が、悲鳴を上げる、プロレスで言うところのアイアンクローという技だ。
必死に手首を掴んで引き剥がそうとするが、それぐらいでは清海の手はびくともしない。
「……身体で分かっていただくしか……」
清海はそのまま片手で男を持ち上げ、放り投げる。
宙を飛んだ男の身体は、別の男に命中した。
「……ありませんね」
清海は、手当たり次第に男達を掴んでは投げ飛ばし始めた。
「狙撃です!孫さん!どこか離れた場所から!」
張の一言で孫は鋭敏に察する、指鉄砲は注意を逸らす為のフェイクだ、あの女の動きに合わせて、誰かが何処か別の場所から狙撃しているのだ。
「あちゃー、バレたか……筧さん、後の援護射撃はお任せでー」
六花は制服に仕込まれた通信機で、狙撃役の筧への指示を伝える。
ネタが割れれば大した事はない、孫は思った。
あの女と接近戦に持ち込んでしまえば。
(……そうすれば狙撃は不可能になる!)
孫は抜き身の柳葉刀を手に、稲光のようなジグザグの軌道で走り、六花との距離を詰める。
六花はスカートのポケットに手を突っ込んだ。
(銃か!?)
それまでの六花の攻撃から、武器が出てくることを予想した孫は、狙いを外そうと大きく横に跳ぶ。
だが、六花が取り出したのは、小さな四角いケースだった。
六花はケースの一角をスライドさせ、チャカチャカと振って手に小さな粒を振り出すと、自分の口に放り込む。
「ミントタブ、食べる?」
孫へニヤりと笑いかけた。
「な!?」
孫は叫びを上げ、六花へと襲いかかる。
「舐めるなぁあ!」
六花は悠然とミントタブをもう一つ、手のひらに振り出すと、親指でそれを孫に向けて弾いた。
鋭い破裂音とともに、孫の目前でミントタブが爆ぜる。
「グッ!」
殴られたような衝撃に、孫の足が止まる。
「遠慮しなくていーよ、いっぱいあるしー」
六花はケースの口を大きくスライドさせ、ミントタブの中身を全て手のひらに取出す。
「どーぞ!」
大きく手を振り、全てのミントタブを孫へ向けて放つ。
(マズい!)
ミントタブは散弾銃から放たれた散弾のように大きく広がって飛んでくる、その全てを避けるのは不可能だ。
孫は咄嗟の判断で、両手を使い、柳葉刀を自身の身体の前で、扇風機のように回転させる。
孫の周囲でミントタブが一斉に爆発した。
(やった、やってやったぞ……!)
孫は荒い息をつきながらも、自らの足で立っていた。
何発かは払いきれずにくらってしまったが、相手も弾切れのはずだ。
そんな孫の思考を読んだかのように、六花は再び笑みを浮かべると、ポケットに手を入れる。
「まだあるんだなあ、これが」
六花が次に取り出したそれは、グミの入ったパックだった。
おもむろにパックを開け、子熊の形をしたカラフルなグミをひとつ取り出す。
「味わって!」
顔めがけて飛来したグミを、孫は刀で払いのけた、が。
(こいつ、時間差で……!)
目前には二つ目のグミが飛んで来ていた。
六花は一つ投げると見せかけて、僅かな時間差を置いて二つ目を投げていたのだ。
孫の目前で二つ目のグミが炸裂する。
孫はゆっくりと膝から崩れ落ちた。
「投げる物の大きさで、威力が変わるんだよねえ」
六花はもう一つ、パックからグミを取り出すと、自分の口へ放り込んだ。
三好伊三美と犬川荘は正門にたどり着いた。
正門から館の玄関までの間には、人相の悪い男達がひしめきあっている。
大人数を相手にするなら、自分の方が向いている、伊三美は咄嗟にそう判断した。
「ここは任せな!委員長は中を!」
隣にいる荘に声を掛ける。
「ありがとうございます!」
言うや否や、荘の姿が消える。
次の瞬間には、館の玄関の前に荘の姿があった。
(なるほどね、あれが荘ちゃんの能力かい)
六花と清海、それぞれの力を見せつけられた男達の中には、もはや積極的に前に出て来ようとする者はいなかった。
六花と清海が、残りを制圧するべく前に出たその時。
清海と六花のいる位置から見て侵入者達の後方、正門に近い方で、さながら何かの爆発でもあったかのように、二三人の身体が宙に舞い上がった。
「清海さん、あれ……」
「ええ、間違いないですね、人をあんな風に非常識に投げ飛ばしたりするのは……」
(うわ、めっちゃ自分を棚に上げた……)
六花が心の中だけでツッコむ。
「姉貴ー!六花ちゃーん!」
伊三美がさらに二人ほどを投げ飛ばしながら姿を現した。




