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ジュウトハチ ―少女舞闘綺伝―  作者: 柊 太郎


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アキラトリッカ その七

 トルベリーナの館の裏手、扉の一つが開いて、中から武藤(むとう)松凛(まつり)が姿を現す。

 一通り周囲の様子をうかがうと、まだ中にいる大輔に声をかける。

「こっちだ、ついて来て」

 トルベリーナ邸の裏庭は、表庭に負けず劣らず広かった。

 表庭以上に木が植えられており、ちょっとした林になっている。

 林へ向かって歩きながら松凛が言う。

「この小道の向こう、林の中を抜けた所に裏門があるんだ、そこからあんたを……」

 不意に林の中から声が上がった。

「ほらね、大当たりだ」

 木立の影から、二人の女が姿を現した。

 一人はどういうわけか、コックコートを着ている。

 もう一人は格好は普通だが、瞳の色が金色だ。

 さらに十人以上の男達が次々と姿を現す。

「言った通りだったろ」

 と、コックコートの女が言った。

 賭けでもしていたのだろう、金色の瞳の女が舌打ちしながら、コックコートの女に指にはさんだ紙幣を手渡す。

 紙幣をポケットにしまったコックコートの女は、松凛に向かって言った。

「……さてと、その子を渡してもらおうか」


 三好(みよし)伊三美(いさみ)犬川(いぬかわ)(そう)、両者がトルベリーナの館の前に着いたのは、ほぼ同時だった。

「ここだな」

 伊三美の問いに、後席の中心(まなか)が答える。

「でヤンス!」

 伊三美は無線機で、特定した館の位置を本部の穴山へ伝える。

 伊三美は穴山への連絡を終えると、言った。

「……霧隠さんや(しのぶ)ちゃんたちも、全員が既にこっちへ向かってる、すぐにここへ着くってさ」

 ヘルメットを脱いだ荘は、館の正門が開いたままになっているのを見て取った。

「……様子がおかしい、急ぎましょう、伊三美さん」

「おう!……おっと、お前らはここで待ってな、荒っぽい事になるかも知れねえからな」

 と、伊三美は木子(きね)中心(まなか)(あまね)千通(ちづる)の二人に、ここへ残るようにいう。

 中心と千通は顔を見合わせると、同時に口を開く。

「「でも」」

「心配すんな、ちゃっちゃと片付けて、帰りも送ってやるからさ、それまでバイクを見ててくれ、駐禁切符を切られたら困るしな」

 荘に続いて正門の方へ走り出そうとした伊三美は、ふと立ち止まった。

「おっといけねえ、忘れるとこだった」

 着ているライダースーツの胸元を掴み、ぐっと力を込める。

 一瞬でライダースーツは伊三美の身体から脱げ、中からは鮮やかな深紅の特攻服が現れた。

 中心と千通が声をそろえてツッコむ。

「「どういう仕組み!?」」


 松凛は悠然と侵入者達を見回しながら言った。

「やれやれ……もしかして、大勢だったら勝てると思ってる?」

 松凛は後ろにいる大輔に小さな声で告げる。

「後ろに下がってて、館の壁を背にして、そのまま動かないで」

 大輔は松凛の言葉に従い、ゆっくりと後退(あとずさ)りを始める。

 松凛はバッグから瓶を取り出した。

 クエルボのレゼルヴァ・デ・ラ・ファミリアのエクストラ・アネホ、松凛がトルベリーナの私室から持ち出したそれは、アルコール度数四十度のテキーラだ。

 パキリ、と音を立てて瓶のキャップを捻り、手付かずだったそれを開封する。

 そして、まるで銭湯で湯上がりのフルーツ牛乳でも飲むように、ごくごくとラッパ飲みし始める。

「……な?!」

 何を考えてるんですか、という言葉が口をついて出そうになるところを、大輔はかろうじて飲み込んだ。

 みるみるうちに瓶は空になり、瓶から口を放した松凛は、口の脇から流れ出た一筋のテキーラを手で拭う。

「ふう」

 松凛は大きく息をつくと、空になった瓶を脇に放り投げる。

「良いぜ、かかってきな」

 松凛は傲然(ごうぜん)と言い放つ。

(体格が……変わってる!?)

 大輔が見る限り、松凛の体型が一回り大きくなっていた。

 筋肉がパンプアップされ、はっきりとセパレーションが分かるほどになっている。

 コックコートの女が無言で腰に下げていた刃物を抜く。

 刃渡り三十センチはありそうな大型の洋包丁だ。

 金色の瞳の女も抜く。

 こちらは西洋式のサーベルだ。

 二人はじわじわと松凛に向かって距離を詰めていく。


 背後で次々と部下達が無言で倒れる中、トルベリーナは決意した。

(やるしかないね、一人でも……)

 せめて松凛(ピーニャ)大輔(ダイスケ)が逃げるまでの時間を稼がないと、トルベリーナはそう思った、だが。

 急に脚に力が入らなくなり、視界もぼやけてきた。

(……毒か?!……匂いはしなかったのに!!)

 トルベリーナも馬鹿ではない、部下達を倒したのが毒ガスである可能性も疑ったが、何の匂いもしなかった。

 それに何より、相手は全員マスク一つ着けていないのに、何の影響も受けずにいる。

 トルベリーナは膝をついた。

「うん、上手く効いてくれたようですねー、行きましょう」

 色白で小柄な女・張か、膝をついたトルベリーナの脇を抜けて館の中へ行こうとする。

「待ちな」

 長身で浅黒の女・孫が張を止めた。

「ナメられたままじゃ癪に障る、少しばかり忘れられない様にしてやろう」

「あー、弱い者いじめですかー?……でも、そういうの、嫌いじゃないです、うふふ」

 孫は手にした中国刀を鞘から抜いた。

 柳葉刀と呼ばれる形状の刀だ。

「顔にデカい傷の一つもこしらえてやりゃ、見るたびに思い出すだろ、これからは口のきき方に気をつけな、豆喰い(ビーナー)

 (……くそっ、身体さえちゃんと動けば、こんな奴らに……)

 孫の刃がトルベリーナの顔に迫る。

 その時、轟音と共に一機のヘリコプターがトルベリーナの館の上を通過した。

 法で認められているとは思えない低高度だ。

 館の周囲にいた者、全員が呆気に取られ、空を見上げる。


「おいでなすったぜ!!」

 伊三美が走りながら歓声を上げる。


 ヘリコプターはMH-60M、通称ブラックホークと呼ばれる米軍の汎用ヘリコプターUH-60の特殊戦仕様型だ。

 乗っているのは十勇士の霧隠才華(きりがくれさいか)三好清海(みよしせいか)望月六花(もちづきりっか)、そして八犬士の犬塚信(いぬづかしのぶ)犬山節(いぬやませつ)だ。

 ローターとエンジンが立てる轟音の中、才華が叫ぶ。

「目標と思われる建造物の周囲に、大勢の人影を確認した!のんびり懸垂下降(ラペリング)してる暇は無さそうだ!」

 才華は八犬士の二人、信と説に向け叫ぶ。

「我々は直接飛び降ります!あなた方は――」

 負けじと信も声を張り上げる。

「もちろん、おつきあいします!」

 頷いた才華は、次に三好清海と望月六花へ向けて叫ぶ。

「三好、望月、両名は建造物周辺に集まっている人物の脅威度を確認、障害になると思われる場合は速やかに制圧しろ!」

 清海が無言で頷き、六花は大声で答える。

「了解です!」

「八犬士のお二人は、私と大輔様の捜索を!」

「承知しました!」

 才華は操縦席と通話できるインカムを手に取り、操縦士に指示を伝える。

「旋回して再度目標地点に接近、建造物の上空で停止してくれ!」


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