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ジュウトハチ ―少女舞闘綺伝―  作者: 柊 太郎


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アキラトリッカ その五

 喫茶店での話し合いから小一時間ほど、三好(みよし)伊三美(いさみ)はバイクで東京の北寄り、喜多(きた)区まで移動していた。

 バイクはカワサキのエリミネーター、色は黒、排気量は400ccだ。

 そしてバイクの後席には木子(きね)中心(まなか)が座っている。

 伊三美は大通りの路肩にバイクを停め、バイクに付いている無線機を操作した。

「あー、穴山さん、こちら三好、現在は喜多(きた)区のあたりにいます、ぼちぼち始めますんで、モニターの方、よろしくお願いします、どうぞ」

「こちら穴山、了解です、犬川(いぬかわ)さんは(みなと)区から、すでに目標に向けて移動中です、どうぞ」

 

 大輔を捜索するために駆り出された木子(きね) 中心(まなか)(あまね) 千通(ちずる)、二人の感じる方向はおおむね東京の東、千葉方面という点で一致していた。

 そこからより詳細な位置を割り出すために、三角法を用いる、というのが三好(みよし) 伊三美(いさみ)犬川(いぬかわ) (そう)、両者の考えた策だった。

 まず伊三美が中心(まなか)(ともな)って東京の北側、荘が千通(ちずる)を伴って東京の南側に向う。

 そこからそれぞれが中心(まなか)千通(ちずる)が感じる大輔のいる方向へと向かって走り、大きな三角形を描くようにする。

 二つの辺の交差した辺りに、大輔がいるはず、という単純にして明快な策だった。

 無論、道路は目的地まで一直線ではなく、細かく折れ曲がっている。

 なので、伊三美と荘の両者が走行するルートを、本部でモニターしている十勇士の一人、穴山が地図の上で直線に置き換え、交差するだいたいの位置を随時連絡する、という手筈だった。


「よっしゃ、こっちも向かうとするか」

 穴山との通信を終えた伊三美は、中心(まなか)へと話しかける。

 バイクを飛ばしている最中でも会話できるよう、二人のヘルメットには通話用のインカムが付けられていた。

「了解でヤンス」

「アタシにその「ヤンス」はいらないぜ」

「そうはいかないでヤンス、自分なりのけじめでヤンスから」

「……まったく」

 苦笑しながら伊三美はヘルメットのシールドを下ろす。

 伊三美がキーをひねり、セルモーターを回すと、野太い音を立ててエンジンが唸りだす。

 伊三美は再度、後席の中心(まなか)に語りかけた。

「目指す方向から、大きく()れそうな時は?」

「すぐに言うでヤンス!」

「よぉし、しっかり掴まってな!」

 

「穴山から連絡があった、目標は概ね千葉方面」

 十勇士と八犬士が共同の作戦本部として使っているマンションの一室で、霧隠(きりがくれ) 才華(さいか)望月(もちづき) 六花(りっか)に言った。

 六花が即座に応える。

「では、我々も?」

「向かおう、清海(せいかい)と犬塚、犬山の両名も――」

 二人が立ち上がったその時、六花のスマートフォンが振動した。

 六花はスマートフォンをスピーカーモードにして、着信に応える。

「望月です」

「こちら(かけい)、監視中の三姉妹に動きがあった、車に乗り込んで何処かへ向かうらしい、こちらも追跡する」

「了解です」

 通話が切れる。

 スマートフォンを仕舞う六花に、才華は言った。

「敵も動きだしたか、急いだ方が良いようだな、奥の手を使う」

「奥の手?」

 六花の問いかけに、才華は微笑みながら天を指差す。


「姉貴!姉貴ったら!」

 リル・ファイブに肩を揺すられ、リル・ツーは目を覚ました。

「……すまない、昔の夢を見ていた」

「昔の?」

 ファイブが問い返す。

「……あたしたちの力が目覚めた頃の……」

「懐かしいね、そこからずいぶんと遠い所に来ちまった、月日も、場所も」

「そうだな……間もなくか?」

 ここは高速道路を千葉方面へと向かう車内、大型のバンには、エンギュイエン三姉妹とジェーン・ドゥが乗っていた。運転役はリル・セブンだ。

「ああ、どんどん強くなってる……姉貴も感じてるだろ?……こんな時によく寝られるもんだよ」

 と、ファイブはあきれ顔で言った。

 リル・ツーは両手を上に伸ばしながら大きく欠伸(あくび)をし、微笑んで答える。

「習い性だな、軍隊時代の」

 エンギュイエン三姉妹は、三人とも合衆国海軍特殊戦グループ、いわゆるネイビー・シールズの元・隊員だった。

 当然、長女のリル・ツーの軍歴が一番長い。

 わずかでも体を休められる機会があれば、最大限に休めておく、それが軍隊で身についた習性の一つだった。


「兄弟になるって、いきなり……何を……」

 トルベリーナの屋敷、あてがわれた一室で、大輔は松凛(まつり)の突然の申し出に面食らっていた。

「あー、だからさ、義兄弟の(ちぎ)りってやつ、年齢(とし)はあたしの方が上だけど、そっちが兄貴分ってことでも良いから……」

「って、いきなりすぎやしませんか……」

 大輔には、松凛が嘘や冗談で言っているとは感じられなかった。

「分かってる、急に変なことを言い出すイカれた女って思われても仕方ないよね……でもゆうべ、震えてるあんたを見たときに感じたんだ、何か運命みたいなのを……もしかしたら、姉貴に似てるからかも」

「姉貴って……お姉さん、いるんですか?」

「うん、あたしが言うのもなんだけど、あたしと違って細くて頼りなくて、でも底抜けに人が良くて……すごく似てる気がする、あんたに……だから……」

「だから?」

「このまま別れたくない……もし兄弟分が駄目なら、恋人ってことでも良いんだけど」

「駄目なら、とかでなるもんじゃないでしょ、恋人って!?……っていうか、近くないですか!?」

 話しているうちに、松凛(まつり)はぐいぐいと近づいて来ていた。

 大輔も徐々に後ずさりし、気がつけば部屋の壁を背にしている。

(これはいわゆる……)

 壁際までさがった大輔を、逃がすまいとするかのように、松凛は両手を突き出し、大輔の顔の左右の壁に手をついた。

(壁ドンと言うやつだ……)

「……駄目?」

 と、松凛は言った。

 どこにも逃げられなくなった大輔の顔に、目を潤ませ上気した松凛の顔が、更にどんどん近づいてくる。

「あ、いや、その、あの」

 今にも二人の唇が触れ合いそうな距離まで近づいたとき、大輔の耳が何かを捉えた。

「あ、あの、外が、騒がしくないですか?」

 松凛がはっとした表情で振り向く。

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