四葉のクローバー
得たものは多かったが、その重みを加えたように、太陽の位置は大分下がっていた。
追い剝ぎが現れた道は、猪か何かが数世代かけて踏み固めたものなのだろう。そうでないなら彼らは良い重機になれていたはずだ。
手元に残した地図で見ると、〇印で囲まれているのは、この先のように思える。
そもそも下手な落書きのような手書きではあるのだが、それでも集落らしき絵とは違う方向だ。
他の場所には×印も付いている。やはりどうにも好奇心が刺激された。
それでもゴトーは、まず人として最低限を優先する事にした。衣食住だ。「食」が満たされていない。
ゴトーは死骸を隠した茂みを一瞥し、すたすたと歩きだした。
>>なにかの気配を感じる。...
「ん?」
茂みの奥に何かがいるような気がして、足を止めて振り返った。
――血の匂いに寄ってきたか?
野生動物の類だろう。けれど鳴き声は聞こえない。匂いも。犬か、熊か、猪か。
人ではないと直感したことに、ゴトーは不思議な気持ちがした。しかし間違いがないように思う。
サバイバル経験は今が初体験だし、空気を読む能力に長けていれば、もう少しマシな人生も送っていただろう。今は関係ないが。
しかし人の肉に味を占めては困りものだが、殺して放置した自分が悪い。それにもう追い払う気力も無かった。
――いっそ自然に還れ。
餌付けというよりむしろ供え物でもしたような気分になって、ゴトーは茂みから目を逸らした。
そして今度は物音を立てないよう、静かに歩き出した。
>>何かを引きずる音がする。...気配は消えた。四葉のクローバーが振ってきた。「?」四葉のクローバーを拾った。
『゛やあみんな、あーりんだよ。サウスシールズ周辺じゃあ、ここんとこ墓荒らしが横行してるんだってさ。街じゃあ死霊使いの仕業だって――゛』
>ベルヴィル
>>村に入った。
獣避けの策を抜けて、ゴトーは小さな集落に到着した。
山からの道は村の後背にあたる出入口まで続いていたが、久しく使われていないようだ。荒れて雑草が蔓延っていた。
反対に、この先を進むにしたがって整備されている様子で、あの追い剝ぎどもが何を考えてあんな場所に出没したのかは疑問だ。あまり追い剝ぎに慣れていなかったか、別の場所に向かう途中だったのかもしれない。
ゴトーは大回りして別の入り口を探そうと考えた。
不審な来訪者として目撃されたくなかったからだが、結局はそれも取りやめた。住民とぱちんと目が合ってしまったからだ。
男は見慣れないよそ者に少しギョッとした様子を見せたが、ゴトーが丁寧にあいさつすると、すぐに好奇心が取って代わった。特に不審には思われなかったようだ。
――しかしオレは、何語で話してるんだ?
不審を抱いたのはむしろゴトーの方だったが、自然と日本語以外で会話しているくらい、今更の話だと思う事にする。考えてもしょうがない類のような気がしたし、どうせ昔から、自分自身が一番信じられない。
「この先に『ベア万雑貨店』って店がある。って言っても、村に店なんて一軒しかないけどな」
訪れる者自体は珍しいのか、村について尋ねた以上に教えられた。
村人に礼を言って別れる頃には、田舎の濃密な関係が匂い立つようだった。悪い場所ではないようだ。
家々は結構な間隔を空けて建てられていて、少なくとも騒音問題で揉める事は無さそうだ。その代わり、目的地までは思ったよりも歩く必要があった。
興奮や緊張が無くなったせいか、山を下りる途中から、小悪魔に打たれた箇所がじわじわと痛み始めた。
鈍い痛みはしつこく居座り、時折立ち上がりもする。出来れば痛み止めも手に入れておきたい。
ゴトーは足を速めた。