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踊り子から占い師へ

 治癒院を退院してから数日。

 腰の痛みもほとんどやわらいできて、杖をつきながら歩けるようになったので、王都にある神殿にやってきた。


 広い神殿の中は老若男女で溢れていた。

 大理石のタイルを行き交っている人たちの足音や話し声が、そこらじゅうから聞こえてくる。


 私は真っ直ぐに受付に向かう。

 途中で「わしはキャピキャピの踊り子になりたいんじゃあ」と言っていたおじいちゃんがいたけど、あのふらついた足取りでちゃんと踊れるのかなあ。



「転職をご希望ですね」


 受付カウンターで目鼻立ちの整った受付のおねえさんから案内を受けはじめた。

 まずは名前、年齢、性別、前職を所定の用紙に記入する。


「きれいな方だなーと思ってたんですけど、前は踊り子だったんですね」


 用紙の前職の欄を見て、受付のおねえさんが話しかけてきた。


「ありがとうございます。でも私よりもおねえさんのほうが何倍もきれいですよ」


「またまたー、褒めてもなにも出ないですよー」


 おねえさんはあからさまに嬉しそうだ。笑顔が溢れ出ている。


「でも、どうしてそんなにきれいなのに踊り子から転職されるんですか? 私個人の意見としては、もったいないなーという気がするんですが」


 ここで私は踊り子を引退することになった経緯を説明。

 杖を見せながら話したら、おねえさんは納得した様子を見せた。


「そうでしたか。では、あまり体を動かすことのない職業を案内しますね」


 そう言っておねえさんはカウンターの奥へと消えていき、しばらくして、分厚い本を両手で抱えて戻ってきた。


 さっそくその本『職業のすすめ』を借りてぱらぱらとめくってみる。

 中はぎっしりと様々な職業について書かれていて、どれも私が見聞きしたことのない職業だらけだった。

 まあ、私が知らなさすぎるだけかもだけれど。


「職業っていろいろあるんですね。私、はじめて知りました」


「はい。世の中にはいろんな職業があります。そしていろんな職業から自分に合う天職を見つけるために、人は転職を繰り返すのです……とか言っちゃって。てへっ」


 おちゃめなおねえさんだ。

 転職に天職って自ら言って、勝手に恥ずかしがって顔を赤くするだなんて、かわいいじゃないですか。


 私は、ふふっ、と笑ったあと、再び本に視線を移した。


 途中途中でおねえさんが職業について説明して、私がそれを聞いてわからないことを質問して、というのを繰り返していく。


 だけど、これだ、と思えるようなしっくりとくる職業にはなかなか出会えない。

 なんだろう、どれもいまいちピンとこないんだよなあ。


「どうせなら、第二の人生はマイペースでのんびりとやれる職業にしたいなあ」


 これまでの私は、ずっとせわしなく踊ってきた。若くして腰を痛めるほどに。

 なので踊れなくなったこれからは、のんびりとやれる職業にしたいのだ。


「それでは、これはどうですか?」


 おねえさんが本のページをぱらぱらとめくり指さした。

 そこには『占い師』と書いてあった。


 占い、占いねえ。

 占いという概念はなんとなくわかる。

 だけど占い師という職業が、具体的にどんなことをするのかまでは詳しく知らない。


「占い師は、おもに人の運勢や未来を占って、人生をよりよくするためのサポートをするという職業です。占い師だったらあまり動かなくても済みますし、人の役に立てるというやりがいもあります」


「おお、そうなんですね」


「はじめは師匠の元で働かせてもらうのが基本的な流れではあるんですが、最初から個人で開業することももちろんできます。なのでマイペースに働こうと思えば働けますね。あと収入もいいですよ。まあ、本人の運と努力と実力次第ではあるんですけど」


 なるほどなるほど。

 おねえさんの説明によると、頑張ればある程度の収入は見込めるらしい。

 お金がないと生きてはいけないので、そこはちょっと安心した。


 それと人の役に立てるというのも、いいポイントだ。

 みんなに笑顔を届けるためにこれまで踊ってきた私にとっては、みんなの役に立ててやりがいも感じられるという点は、わりと重要なことだと思っている。


 あとはマイペースに働けるという点も魅力的だ。


 占い師、よさそうな職業かもしれないな。



「決めました。私、占い師に転職します」


 おねえさんは私の意思を聞いて、「決まったんですね、おめでとうございます」と言い、素敵なスマイルになった。


 それから私が占い師になるための手続きと、占い師に転職する人用の資料や案内のちらしなどを準備して渡してくれた。


 いよいよはじまる第二の人生。

 これから私は、占い師だ。

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