踊り子辞めます
「ええーっ! 踊り子辞めちゃうのー!?」
ピピナちゃんの驚いた声が部屋の中に響いた。
治癒院での入院生活二日目。
酒場で一緒に踊り子のグループ活動をやってるピピナちゃんと、私のマネージャーのミミカさんがお見舞いにきてくれたのだ。
私が稽古中に腰を痛めて動けなくなったときに、いち早く異変に気づいたのはピピナちゃんだった。
そして治癒院に連絡して救急搬送の手配を素早くしてくれたのは、いつも冷静沈着なミミカさんだった。
その二人はベッドで寝たきりの私の横で、来客用の椅子にちょこんと座っている。
「私、再起不能なんだって」
「再起不能……」
「日常生活は送れるけど、激しい運動はアウトなの。だからもう踊り子を続けられなくなっちゃった」
「そ、そんなあ……」
まるでピピナちゃんが再起不能の宣告をされたかのように、今にも泣き出しそうな顔になった。
まんまるとした目は潤み、鼻は赤くなっている。
せっかくのかわいらしい顔が台無しだぞ。
「私の無茶からきた怪我だし、こればっかりはしょうがないよ。だからそんなに悲しまないで、ね?」
「うん……」
ピピナちゃんは目じりをぬぐった。
その様子を隣で見ていたミミカさんが、そっとピピナちゃんの肩に手を置いた。
「そういうことなんです。ということでミミカさん、私、踊り子辞めます」
私は真っ直ぐにミミカさんを見る。
真面目でキチッとした性格のミミカさんは、いつにも増して真剣な表情をしていた。
「事情はわかったわ。あなたの言うとおり、こればっかりはしょうがないものね。じゃあ私が踊り子グループ脱退の手続きをしておくわね」
「はい、よろしくお願いします」
正式に、脱退する方針を伝えた。
「なんでなのお、いやだよお……」
ピピナちゃんはずっと泣いたままだ。
「ピピナちゃん、今までありがとね。私、ピピナちゃんと出会えて幸せだったよ」
「そんな今後もう一生会えないみたいな言葉、言わないでよお……」
「あ、ごめんごめん」
つい死ぬ前みたいなセリフを言ってしまった。
いやーしかし、こんなに悲しんでもらえると、なんだかちょっと嬉しいな。
いま私が寝たきりじゃなかったら、ピピナちゃんの頭をよしよしして慰めるのにな。寝たきりで手が届かないからそれができないのが悔しい。
「ミミカさん、今まで私のお世話をしてくださって、本当にありがとうございました」
それから私はミミカさんにも感謝の言葉を伝え、頭を下げた。
「こちらこそ今までありがとう。あなたのおかげで、踊り子のグループ活動が上手くいっていたと言っても過言ではないわ」
「ありがとうございます。ミミカさんにそう言ってもらえただけでもこれまで頑張ってきた甲斐がありますし、それにすごく嬉しいです」
「あなたならこれからも、しっかりと生きていけるわ。これまであなたを見てきた私が保証する。だから、あなたのこれからの活動、期待してるわよ」
「何か困ったことがあったらすぐに言ってね。約束だよ!」
涙を手で払ってようやくいつもの晴れやかな顔になったピピナちゃんが、手をグーにして私の目の前に出してきた。
それに続けてミミカさんも「私たちはいつでもあなたの味方よ」と言ってグーにした手を出す。
まるで私たちがダンスステージ本番前にやるグータッチじゃないか。
私も手をぎゅっと握ってグーにする。
そして私たち三人は、笑顔でグータッチをした。