田舎の村へお引越し
踊り子として過ごしてきた愛着ある王都から、ヤムイ村という田舎の村の、しかも片隅に引越した。田舎にポツンと一軒家な状態だ。
引越し代と占い師に必要な道具を一式買い揃えたら、これまでに貯めてきたお金のほとんどが消えてしまった。
とはいえ、収入がなくてもまだしばらくは普通に生活できるくらいの貯蓄はある。
まあ、お金が完全に尽きることはないだろう。
「いっちょ頑張りますかー」
店舗兼家屋の玄関先で、腰に響かない程度に背伸びをして気合いを入れる。
やわらかな朝日が私の身体に降り注いでいる。
玄関のドアに取り付けた木の看板を裏にひっくり返し、クローズからオープンに変えた。
占い師初日のはじまりだ。
「さて、まずは身だしなみチェックよね」
家に入り、鏡で服装を見直してみる。
今の私は、占い師の人がよく着ているというフード付きの黒いローブを身にまとっている。緋色の髪と相まって、ミステリアスな印象になっていると思う。
「うん、身だしなみオッケー」
それから占いをするための占い部屋に行き、王都の道具屋で買った占い用の水晶玉を拭くことにした。
息を吐きかけて、きれいな絹で拭く。
これでもかというくらいに、拭く。
何度も何度も、拭く。
ぐうぅー、と、お腹が鳴って我に返った。
時計を見たらもうお昼だった。
熱中して水晶玉を拭いていたせいで、すっかりと時間を忘れていた。
集中すると周りが見えなくなる癖は、直したほうがいいのかな。
……でもまあいっか。時間を忘れるほどに集中できることはいいことだよね。たぶん。
ゆったりとお昼をすませて、まったりと休憩を取ったあとは、引越しする前に穴があくほど見た、占い教本を読むことにした。
もう頭の中にほぼ全て入っているから今更読む必要はないけど、念には念を入れてまた読む。
水晶占いのページ、手相占いのページ、人相占いのページ。他にも色々ある占いのページを、まんべんなく読む。
「お客さんこなかったなー」
ついさっきお昼だったのに、気がつけば日が沈んでいた。
窓の外からうっすらと、半分の月が見える。
「まあ初日だし、こんなもんでしょ」
玄関のドアの看板をクローズに変えた。
それから約五日間、こんな毎日を繰り返した。
もちろん収入はゼロ。
さすがの私でも、このままじゃまずいかなと思ってきた。
しとしとと雨が降る夜中、眠りつく前に、お客さんが来ない原因をベッドの中で考える。
お客さんが一向に来ないのは、田舎の村の、しかも片隅でお店をやってるからかもしれない。
あと、占い師やってます、っていう広報活動を全くやっていなかった。
たぶん村のみんなは、私が占い師やってるってことを知らないんだ。
明日、人が集まってるところに行って、出張占いでもやってみようかな。