表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/30

婚約破棄

「シルア・アリュシオン! アドラント王国第一王子クリストフの名をもって婚約破棄を宣言する!」




 突如呼び出された王宮内の広間にて、クリストフ殿下は私シルア・アリュシオンに対して高らかに宣言した。

 険しい表情をしているものの、その傍らには美少女と名高い伯爵令嬢アイリスを侍らせているので真剣な雰囲気は台無しだ。彼女は甘える顔つきで殿下の腕にしがみついているが、時折こちらに嫌悪と恐怖が入り混ざった視線をちらちらと向けてくる。






 ……ということだけ説明しても訳が分からないと思うので、状況を説明しようと思う。と言っても、私にも殿下の脳内がどうなっているのかは分からないから状況を説明しても意味不明なままだと思うけど。


 私、シルア・アリュシオンはアドラント王国に先祖代々仕えるアリュシオン公爵家の令嬢である。初代公爵は初代国王がこの地で暴政を敷いていたバイルス王国を打ち倒す際、先陣を務めて敵軍に突入して壊滅させた功により公爵位を与えられたと史書には描かれている。

 その後代々の功績で国で随一の家に登り詰めた我が家は、父である現当主の根回しもあり、次期国王になるであろうクリストフ王子と私を婚約させることに成功した。国で最大級の政略結婚と言える。


 そのため私と殿下は特に仲がいいこともなく、たまに公式のパーティーで横に並んで立つ程度の関係しかなかった。そして私は特に不満を抱くでもなく、政略結婚とはそのようなものだと諦めていた。

 だから殿下が私自身に欠片も興味を抱いていないことを分かっていても、パーティーの際には隣でにこやかに手を振っていたし、殿下の人柄を問われれば「王国の行く末を任せるにふさわしいお方でございます」と社交辞令を述べていた。そして殿下がいないところでは次期王妃と恥ずかしい人物と思われぬような振る舞いを心掛けていた。


 そんな中、突然殿下から「話があるので来てくれ」と言われたので来た結果がこれだったという訳だ。ここまでの経緯を語ってみたが、正直全然状況が分からない。一体なぜ婚約破棄などされなければならないのだろうか。

 殿下と別れるのは構わないが、こちらとしても一応家名を背負っているのではいそうですかという訳にはいかない。





「あの、一応理由を聞いてもよろしいでしょうか?」


 私は苦笑いを浮かべながら尋ねる。恐らくはろくでもない理由しか返ってこないだろう。


「それについてはアイリス、説明してくれ」


 なぜか殿下は傍らのアイリスに話を振った。私と殿下は今年で十五だが、アイリスは確か十三歳と言っていた。ちょっと幼くて庇護欲をそそる外見をしており、ろりこ……一部の趣味の男性からとても愛されている。まさか殿下までそちらの人間とは思っていなかったが。


 ただ、言われてみれば王宮内で殿下がアイリスと親しげに談笑しているところや、贈り物をしているところを見たことはある。もう婚約もしている王子である以上、ただの社交辞令のようなものだと思っていたけどどうやら本気だったらしい。


 するとアイリスはなぜかこちらを恐怖の目で見つめ、声を震わせながら言う。


「こ、この方はま、前に一人で虚空に向かって話していました! あれはきっと悪魔と会話していたに違いありません!」

「そうだ、他の者に訊いても似たようなことを言う者がいる。我々が姿を見ることが出来ない化物のような存在と会話しているのだろう!」


 アイリスの言葉に同調し、殿下はこちらを指さして叫ぶ。

 それを聞いて私はようやく事情を察した。


 この世界には精霊と呼ばれる、地水火風、そして光と闇を司る存在がいる。基本的に精霊は見えないし、コミュニケーションをとることは不可能な存在であるが、私はなぜか彼ら(性別は不明だしそういう概念があるのかも不明だが)と意思疎通することが出来る。

 見ることが出来る人物だけならまだ私以外にもいるのであるが、会話が出来る者は私が知る限りいないし、聞いたこともない。

 そのことを言いふらしても理解されることはないと思っていたため公表はしていないが、一応家族と婚約相手である殿下には伝えていたはずだ。それを今になって婚約破棄の理由として持ち出されるのはおかしい。しかも化物と会話しているなど言いがかりも甚だしい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ