雪国と化す?
069
「異常気象? 魔物の仕業か? でもこんなところに魔物なんか……凶暴化した動物? いや違う……って、おい! クロヒ!!」
ライルがぶつぶつ言っている間に、クロヒはせっせと、火を焚いていた。
『ん? なんだ? 寒いんだから仕方ないだろ』
「ちがうちがう、そうじゃなくて、どうやって、火をつけた!?」
『ん? あぁ、なんか……』
と言いかけて、止まった。ポカーンと一点を見つめて。
「なんだよ。おい? クロヒ~?」
クロヒの目の前で、手を振る。どうやら、ライル自体が見えていないようだ。
おいおい、どうなってんだよ。
ふと、先ほどクロヒが焚いていた火に目が止まる。
「動いてない……?」
文字通り、ゆらゆらと揺れていたはずの炎どころか、クロヒすらびくともしない。
なんで、俺動けんの?
「そうだねぇ。不思議〜君珍しいよ〜」
不意に後ろから声がした。女の人? だろうか。
「あぁ、自己紹介をしていなかったね」
ライルはゆっくりと、後ろを向く。悪寒を感じ、ゆっくりと。
「なぁんだ。可愛い顔してるじゃない。あ、私は、ミクレよ。覚えておきなさい。一応、テイメの幼馴染みに当たるかしら? 私は人間だけど。あぁ、君と同じ、転生者よ。テイメももとは人間で転生して、神になってるって感じ。もとの世界での幼馴染みね」
若い緑色をした、サラサラなミディアムヘアー。見ようとせずとも、目に留まる紅色の瞳。少々つり目で、性格は何となく理解できる。口調からも。
「えと、つまり、どう言うことですか?」
「理解しなさいよ。ポンコツ。私があなたの敵ってこと。わかった?」
二十歳前後の女、ミクレは語る。
「つまり、今戦えと?」
「それは無いわ。んー。どう言ったら良いのか……この状況、理解できるわよね? この雪」
「はい。雪ですね」
「これは、予想してなかったのよ。これじゃあ、私の計画も、水の泡になってしまう。だから、敵であるあなたに、この私が、直接、しかも頭を下げようってんだから、あなたに断る権利はないのだけど、休戦と言うことにして、とりあえずあなたたちを、この世界から出すって言うこと。つまり、この世界にあなたたちがいる場所はないから、出ていってくださいってことね。雪なんか降らなければ、このまま閉じ込めておけたのに……」
ボソッと素晴らしいことを吐き捨てる。
頭を下げるどころか、全くただの命令であって、強制ではないのか。と、ライルは心のそこから思う。
「僕たちに利益はあるんですか?」
「帰れること。それが、そうだと思うのだけれど? 文句でもあるのかしら?」
いったいどこまで、何様なんだよ。
「わかった。で、それは、今すぐなのか?」
「まぁ、ここにいてもなにもないし、その二人が、凍え死ぬだけよ」
ライルの後ろにいる、深鈴とクラハを見ていった。どちらも顔色が悪い。
「わかった。で、あれから、どれくらい経ってるんだ? 僕たちが、この世界に飛ばされてから」
「そうね。ざっと、三年かしら? 細かくは分からないわ。ご両親は今でもあなたの帰りを待っているようだけど」
そうか。それが分かれば、心配することはない。強いていえば、レミスがどうしているか。まあ、事情を説明すればなんとかなるだろう。
「わかった。行くよ。今すぐ」
「良い決断ね。やっぱり……」
何かを言いかけたが、ミクレは、何かを唱え始め、ライルたちの足元に、魔法陣が浮かび上がった。体が重力を気にせず浮き始める。
「ーー、ーー」
意識が飛ぶ寸前、ミクレは、悲しそうな顔で、何かを言った。その顔は、なんとも、友達を思ってか、想ってか。
俺は、その顔が忘れられない。




