危機的状況その3
066
クラハ、待ってろ! 今行くからな!
そう伝えて、ライルは女神の背後に回った。女神もその様子に気付いたらしく、ちらりとライルのほうに視線を送る。
「何だ、女神は、同時に二人の相手も出来ないのか。笑えるなあ!」
「ケケケッ、どうだろうな!!」
女神は、口調、態度、性格に似合わない、可愛い顔で、満面の笑みを浮かべる。
うげっ、気持ちわりぃ……
「そんな笑みを浮かべてる暇があったら、俺の相手をするんだな!」
先手必勝! さっきの攻撃、真似させてもらおうか!
《まねぶ》
《炎上円火》
その瞬間、膨大な魔力を帯びた、炎が女神を包み込む。
……!? いや、待て……! 俺が使ったのは、さっき女神が使ってた、あの小さい炎の、魔法だよな?
「今のはいったい……」
「お前さぁ。加減を知らないのか?」
さっき、放った炎を、ふっと息で吹き消し、にやにやと笑いながら、ライルに迫る。
「さっきな、俺は加減してやってたんだよ? あんな小さい竜になにも出来っこないだろう? ケケケッ!」
クラハを指差して、そう言った。クラハは、立つ気力すら残ってないように見える。ピンと張っていた羽は、地面に弱々しく垂れている。
「……あんな、小さい竜だぁ?」
ライルは、俯きボソッと呟く。
「なんだ? 何か言いたけりゃ、もっと大きな声で言えよ、なぁ?」
「お前には到底分からない感情さ。仲間を、仲間をそんな風に言われて、黙ってられる。そんなやつがいるわけ無いだろ。俺は、怒ってるんだよ。怒ってるんだよ……」
女神は、ライルを睨んだまま、動かない。
「お前には、友達がいない。そうだろう? お前には、家族もいない。そうだろう? ……ついでに……自分も信じられていない。そうだろう? 女神さん」
「……お前に何が分かるんだ? 俺が、どれだけ苦労してきたか、分かるか? 家族にも貶され、世界すら、俺を嫌った! 俺は、強制的な、関係でしか、関係を築けない! それのどこが悪いってんだよ!!」
その言葉にたいして、ライルは反論できない。
確かに、あの女神の気持ちが分からないわけじゃない。……この女神、何なんだ? 本当に、女神なのか……?
「……ケケケッ! お前のような人間の挑発に乗ってしまったようだ。だが、お陰で、やる気が出たよ。俺は、お前らを消す。もう二度と、こんな思いはしたくないからな。また、転生になるのもうんざりだ。まぁ、今度転生するなら、勇者が良いな……お前らには、関係ない話だがなぁ!!」
転生……? 勇者? もう二度と、こんな思いはしたくない……?
女神は、炎上円火を発動させ、クラハに攻撃にかかる。
今はそんなこと考えてる場合じゃない!
「クロヒ! 動けるか!?」
『お陰さまで、体力まで完全回復したぜ!』
クロヒは、余裕な顔で、ガッツポーズをしてみせる。
今は、ふざけてる場合じゃねーだろ!
「クロヒは、とりあえず、女神の視界を塞げ!」
『言われずとも《黒煙》』
そう言うと、辺りが薄暗くなり始めた。
「くだらん魔法だな! 俺にきくとでも思ってるのか?」
別に、お前を足止めしたいわけじゃないんだよ。
ライルは、暗闇から、クラハを助けだす。まだ、黒煙は女神を包んでいるようだ。
「……お前、俺にそっくりだな……」




