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危機的状況その1

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 064





『ライル! しっかりするのじゃ! 目を覚ませい!』


 クラハは、ライルの耳元でそう叫んだ。

 あぁ、誰かの声が聞こえる……


『ライル! ……起きないと、妹さんが大変な目に!』


 妹……深鈴、深鈴が!?

 ライルは、飛び起きて辺りを見回す。もちろん、ただの砂浜が広がっているだけだった。


「……おい、クラハ。深鈴が、何だって?」


『そうでも言わんと、起きないでの。冗談じゃ。すまないのう』


「冗談じゃすまないぞ! まったく」


 ……まあ、まずは、ここがどこで何なのかを知らないと、行動するのも危険だ。

 ついさっき、山で教わったやつ。使えるか?


 《周辺感知》


 周辺感知は、無属性魔法に当たる。ただし、魔法陣を操る者にしか、使えないと言われている魔法だ。

 目の前は、海。

 後ろの方には崖があって、その上は、木々で覆われている。


「……普通にあの洞窟があった、海沿いじゃないのか、ここ?」


『そんなわけないじゃろう! わらわたちは、むこうの陸から来たんじゃからの!』


 そう言って、海の向こう側を指差す。

 え、良く覚えてない……。それで、俺の知ってる、海沿いじゃないってことは、ここはどこなんだ?


『はぁ、ライルはそこで待ってるのじゃ。わらわが見に行ってくるでの』


 クラハは、ひょいと飛んで!崖の上に行ってしまった。

 ……暇だなぁ。魔法陣、早く上級にならないかなぁ。


「あら、そんなに余裕を持っているとは、肝が据わっているんだな」


 ふと、背後から女の声がきこえてきた。

 ……クラハ? いや、この喋り方のは聞き覚えが……


「お前、まさか……!」


 ライルは、全身についた砂も払わず、立ち上がり、辺りに気を配る。


「そのまさかだ、ケケケッ!」


「どこにいるっ!」


「お前のとこにはいない。テレパシー? みたいなやつだからな!」


 ちっ。……おい、クラハはどこだ?


「自分で探しに来たらどうかなぁ。ライル君? ケケケッ、カカカッ!」


 そう言って、声はきこえなくなった。


「あぁ、もう。クロヒも、クラハもいないし……そう言えば、深鈴は?」


 いい、とりあえず今は、クラハを探しに行かないと!


 《浮遊、突進》


 いつもより、勢いのついた浮遊魔法で、ライルは、地上から足を離す。



 ーーー




「と言うわけでだなぁ、クロヒ君、君には、この女を殺す資格があるのだよ?」


『そうだな、こんなに沢山の命を奪ってんだから、そのくらいされてもなぁ』


 くっそ、動くなよ。俺! 深鈴さんは、ライルの妹だ。こんなことするはずがっ……!?

 クロヒの考えることはお構いなしに、クロヒの身体は、深鈴へと歩みを止めない。

 どうすれば……!


『……にいさんっ』


 ポツリと、誰かがささやいた声は、クロヒにしっかりと聴こえていた。

 今のは……。まさか、クラハ。と言うことはライルがいるのか!?

 そう思うと、気力が増してくる。

 止まれ、止まれ!!


「あれれ? どうしてかな? 止まる必要なんてないんだよ? ほら、ここに、悪い女が。ケケケッ!」


 ライル、すまん……もう、止められないみたいだ……俺の力じゃ、どうにもならない……


「あれ、ライル君、もう来ちゃうかな?」


 女神がそう言ったが、ライルがどこからか来る気配はなかった。


「まだか。そりゃそうだよね、今教えたばっかだし! ケケケッ!」


 ライル……!!

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