危機的状況その1
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『ライル! しっかりするのじゃ! 目を覚ませい!』
クラハは、ライルの耳元でそう叫んだ。
あぁ、誰かの声が聞こえる……
『ライル! ……起きないと、妹さんが大変な目に!』
妹……深鈴、深鈴が!?
ライルは、飛び起きて辺りを見回す。もちろん、ただの砂浜が広がっているだけだった。
「……おい、クラハ。深鈴が、何だって?」
『そうでも言わんと、起きないでの。冗談じゃ。すまないのう』
「冗談じゃすまないぞ! まったく」
……まあ、まずは、ここがどこで何なのかを知らないと、行動するのも危険だ。
ついさっき、山で教わったやつ。使えるか?
《周辺感知》
周辺感知は、無属性魔法に当たる。ただし、魔法陣を操る者にしか、使えないと言われている魔法だ。
目の前は、海。
後ろの方には崖があって、その上は、木々で覆われている。
「……普通にあの洞窟があった、海沿いじゃないのか、ここ?」
『そんなわけないじゃろう! わらわたちは、むこうの陸から来たんじゃからの!』
そう言って、海の向こう側を指差す。
え、良く覚えてない……。それで、俺の知ってる、海沿いじゃないってことは、ここはどこなんだ?
『はぁ、ライルはそこで待ってるのじゃ。わらわが見に行ってくるでの』
クラハは、ひょいと飛んで!崖の上に行ってしまった。
……暇だなぁ。魔法陣、早く上級にならないかなぁ。
「あら、そんなに余裕を持っているとは、肝が据わっているんだな」
ふと、背後から女の声がきこえてきた。
……クラハ? いや、この喋り方のは聞き覚えが……
「お前、まさか……!」
ライルは、全身についた砂も払わず、立ち上がり、辺りに気を配る。
「そのまさかだ、ケケケッ!」
「どこにいるっ!」
「お前のとこにはいない。テレパシー? みたいなやつだからな!」
ちっ。……おい、クラハはどこだ?
「自分で探しに来たらどうかなぁ。ライル君? ケケケッ、カカカッ!」
そう言って、声はきこえなくなった。
「あぁ、もう。クロヒも、クラハもいないし……そう言えば、深鈴は?」
いい、とりあえず今は、クラハを探しに行かないと!
《浮遊、突進》
いつもより、勢いのついた浮遊魔法で、ライルは、地上から足を離す。
ーーー
「と言うわけでだなぁ、クロヒ君、君には、この女を殺す資格があるのだよ?」
『そうだな、こんなに沢山の命を奪ってんだから、そのくらいされてもなぁ』
くっそ、動くなよ。俺! 深鈴さんは、ライルの妹だ。こんなことするはずがっ……!?
クロヒの考えることはお構いなしに、クロヒの身体は、深鈴へと歩みを止めない。
どうすれば……!
『……にいさんっ』
ポツリと、誰かがささやいた声は、クロヒにしっかりと聴こえていた。
今のは……。まさか、クラハ。と言うことはライルがいるのか!?
そう思うと、気力が増してくる。
止まれ、止まれ!!
「あれれ? どうしてかな? 止まる必要なんてないんだよ? ほら、ここに、悪い女が。ケケケッ!」
ライル、すまん……もう、止められないみたいだ……俺の力じゃ、どうにもならない……
「あれ、ライル君、もう来ちゃうかな?」
女神がそう言ったが、ライルがどこからか来る気配はなかった。
「まだか。そりゃそうだよね、今教えたばっかだし! ケケケッ!」
ライル……!!




