クロヒが話さない理由その1
056
空を飛んで戻ってきたライルを見つけた深鈴が走り寄ってきた。
「お兄ちゃーん! お米はー!」
「無い」
「あれ、聞き間違えだよね? お米は?」
「無い! 聞き間違えでもない! 見つからなかった!」
深鈴は、ぽかーんと、口を開けたまま固まる。
お米がそんなに大事か……?
「お兄ちゃん……ちゃんと探したの? 正直に言って、怒るよ!」
もうすでに怒ってるだろ。正直に言うのなら、探してないけど、もっと言うなら、お米以上の価値があるかもしれないものを見つけた。
『言い訳ばっかじゃないか』
「何で黙ってるの? まさか、本当に探してないの?」
「ああ。本当だ」
「……!? お兄ちゃん……!」
深鈴が、ライルに向かってドスドスと歩いてくる。が、ライルは無視をして、空を見上げた。
もうすぐ、夜だ……寝る場所の確保と、夜ご飯を食べないとな……どうせ、深鈴に怒られるんだから、今くらいは、綺麗な夕焼け空を見させてくれ。
「お兄ちゃん! ご飯にしよ! お兄ちゃんじゃ、見つかんないと思ってたから……お米無しでも食べれるようにしといた」
そう言いながら、顔を伏せる。言葉の最後の方は、若干ふて腐れ気味だった。
……?
『へへ、してやられたな! ライル!』
「え、待ってください。深鈴さん。どう言うことですか?」
「だから、お兄ちゃんには、見付けられないって分かってたから、帰ってきたときに怒ったふりしてたら、面白いだろーなぁ。って訳!」
……深鈴に遊ばれたわけか!? うわ、深鈴に怒られたらって心配してた、自分が恥ずかしい。
「じゃあ、深鈴は自分が短気なのに気が付いていたってことか!」
手のひらに握り拳をポンッと、打ち付けてそう言った。
「あ?」
鋭い視線を向けてくる深鈴はまるで、ジャングルの王のよう。
……あ、まずい。今度は本当に、地雷を踏んだ。
「あ、あのお、み、深鈴さん……?」
『おい、ライル! 今からそっちに行く。あ、でも帰る方法は無いから俺がそっちに行くだけじゃ! いいな! 出迎える準備をしておけ!』
さっきまで静かだった、クロヒがいきなりそんなことを言い出した。そこで、クロヒとの繋がりも切れた。
「く、クロヒ!?」
「お兄ちゃん……まさか、あ、UFO! て言って逃げようとしてる訳じゃないよね? からかってんの?」
「あ、……」
声に出したことに気がついたライルは、慌てて口を塞ぐ。
つい声に出してしまった。そんなのこんなタイミングに言われたら、声もでるって。
でもどう言うことなんだろう? こっちに来るって……どうやって?
あ、ご飯の準備。
「深鈴、今日は、豪華なんだよな!」
「え!? あ、う、うん」
「早く用意するぞ!」
「え、うん……?」




