本当の事。本当の思い。
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051
洞窟を離れたライルたちは、森を進む。ゆっくり、のろのろと。
辺りでは、小鳥が呑気に歌い、りすが木を素早く登り、茂みできつねがじゃれている。
「なあ、深鈴」
「なに?」
……やっぱり、訊かない方がいいかな。前世の両親が、俺がいなくなったあと、どうなったか。なぜか、気になる。あの両親は、俺に全く興味がなかった。だからこそ、死んだらそのあとが気になる。
「なによ?」
「あの……その、両親はどうなった?」
「あぁ、そう言うことね。はっきり言うと、変わってない。お兄ちゃんが居なくなってから、更に仕事を増やしたみたい」
は? あれ以上増やした? じゃあ、深鈴は家で一人だったのか。子供が一人いなくなっても、関係無いってか?
「あ、あのね。でも、お兄ちゃんが思っているように、子供がどうでもいいんじゃなかった。ちゃんと、私たちの事を考えての事だった」
「……どういう事?」
俺らのことを考えていた? 仕事ばっかに精を出していたのに? そんな馬鹿な。
家は、雨水が垂れ、物音が筒抜けで、歩いたらきしむ、ボロボロのアパート。家に帰ってくるのなんか、真夜中。話もしないし、ただいまも言わない。見向きもしないし、ご飯を美味しそうに食べない。
会話はしないし、笑顔も見せない。目の下にはくまが出来、生気がないようにも見えた。毎日毎日、仕事行っては帰ってきて、ご飯食べて寝て、仕事に行く。
それのどこが、俺らのことを考えている……あ、え? どこも、俺らに関係無い……?
「お父さんたちはね、一軒家を買おうとしていたんだよ。今のままじゃ、余計にお兄ちゃんや私に負担をかけてしまう。そう思ったから、ああやって、夜まで働いていたんだよ」
深鈴が、顔を覗き込んで笑って言った。
すごいよね。
「じゃ、じゃあ、俺は、ただ、勝手に怒っていた?」
俺は、勝手に怒っていただけだったのか? 両親が、せっせと働いている間に、俺はただイライラしていただけ? 自分勝手に解釈して、、、俺は……両親を憎んでいた?
ライルの目から、水が滴り始めた。次第に量は増し、手で拭っても止まることはなかった。
「お兄ちゃん……私もそう思っていた事に違いはないんだから、お兄ちゃんだけが悪い訳じゃないから。ね? お父さんたちだって、ちゃんと伝えておけば良かった、って、言ってたよ」
まだ、自分より小さい背中をさすりながらそう言った。
「深鈴……」
父さんたちが、俺らのことを考えていた。ありがとうって、俺も伝えたかった。何でだろう、何でこんなにあっさり納得できたんだろう? でも、何か、心の奥でひっかかっていたものが、とれた気がする。
そう思うと、不思議と涙が止まっていた。
「お兄ちゃん。スッキリした? 久しぶりに泣いたんじゃない? 凄かったよ。もう、滝だった」
「うん。スッキリしたよ。何でだろう、あんなに、父さんたちの事が嫌いだった筈なのに、深鈴の話を聞いたら、その気持ちが何処かへ行っちゃった」
「じゃあ、お兄ちゃんも、本当は分かってたんだよ。ただ、素直になれなかっただけじゃない?」
そうか。素直になれなかっただけ、か。
深鈴に、そう言ってもらえなかったら、俺はきっと、そこでまた、躓いていたんだろうな。
ふと、前を向くと、もうすぐ森を出るところだった。




