俺の勝ち
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「ほう。その意気だけは褒めてやる」
「どうしたら、俺らが勝ちになる?」
「うーん。外に出れたら勝ち? かな?」
なんだよその反応。それで勝ちなら、精一杯逃げさせてもらうけど。
「さあ、他の事はどうでも良いだろ? 逃げればいいんだよっ!」
シュンッ!
突然の攻撃に、ライルは避けきれず、頬に刃がかすった。じわじわと血がにじむ。
痛っ! 不意打ちは、ダメだろ?! ……風が速すぎて、まともに反応できない。
「……! お兄ちゃん‼ 大丈夫!? 傷口をどうにかしなきゃ!」
ライルは、これ以上血が出ないように、傷口を押さえた。
「このくらい平気だから、どうにかして、ここから出なきゃいけない」
「私の最大魔法では、どうにも……」
倒す訳じゃないから、スピードと自分を守れれば、いける。じゃあ、スピードはあれだ。
「……深鈴は、さっきのように、突進で出口を目指せ。浮遊魔法をかけるから、その分速くなるだろ」
「お兄ちゃん……が、お兄ちゃんじゃない。前みたいに、無関心じゃない」
うぐっ、何かが俺の心に刺さったぞ。いや、今は、それはどうでもいい。
早速、ライルが浮遊をかけ、深鈴は出口に向かって、進み始める。
「へぇー、合体魔法? 俺、始めてみた~。と言うことで、嬢ちゃんは見逃してやるよ。良いもの見せてくれたから」
嬢ちゃん……?
「さて、次は君だよ」
「俺か。俺も逃げれば良いんだよな」
「そうだな。さっきは、当て損ねたけど、今度は外さない」
どこから飛んでくるか分からない攻撃を、避けるため、ライルはシールドを全身に張った。
「そんなんで、大丈夫なのか?」
「うっさい。しつこい。じゃあね」
そう言うと、浮遊魔法をかけ、暗がりから遠ざかる。
が、突然、ライルは止まった。
「お前、、、」
「あ?」
「もっと良い料理作れよ」
「……」
ライルが、声をかけたはずの暗がりから、返事は返ってこなかった。
それどころか、攻撃すら来なかったので、ライルはゆっくりとその場をあとにした。
「お兄ちゃん‼」
気が付けば、ライルは洞窟の入り口で、ボーッと突っ立っていた。
「ああ、深鈴か」
「ああ、深鈴かじゃなくて! 大丈夫なの!? 怪我してない!?」
特に、痛みは感じない。まあ、攻撃された覚えがないから、大丈夫だと思うけど。痛むかと言われれば、頬がヒリヒリする。
チュンチュンチュンチュン……
しばらく、暗いところにいたせいか、辺りがすごく明るく見える。
『はあ、結局居なかったな。ニトって言う奴』
……あ、あぁ。
『ライル?』
「深鈴、ニトを探すのはやめよう」
「どうしたの、いきなり」
「いや、きっとなにか、用事があったんだ。それで、俺たちに迷惑をかけないよう、こっそり出ていったんだろう。って、今更思ったまでだよ。だから、帰る方法を探そう」
違う。本当は違う。あいつは、俺らと居られなくて、でも、迷惑をかけたくないから出ていった。俺らが探しに来ると知っていて、わざわざ芝居をして、俺らを自分から遠ざけた。
最初から、俺が気づいていれば、、、
「……うん。そうだね。深追いするのも良くないよね」
深鈴は、ライルの提案にあっさりとのった。
へ? 深鈴のことだから、ダメだよ! 諦めちゃ! みたいなことを言うのかと思っていたけど。
『それで良いなら、それで良いけど』
……クロヒ、お前は後でしっかり説明してもらうからな。何で、こんな風に会話ができているのかをな!
『ライル、お前、気持ちの切り替え早くなったな』
今はどうでもいいだろ!
「お兄ちゃん、これからどうする?」
「まずは、森を抜けよう」
ニト、ありがとう。神様じゃない、初めての友達になってくれて。そっちは、そう思ってないかもしれないけど、楽しかった。
また会おう。
ライルは、持っていた、米を洞窟の前に置き、その場を離れた。




