浮遊魔法、展開!
047
遠足気分の深鈴は、自ら浮遊魔法にかかった。
足が地面から離れ、数メートル、上昇する。が、そこで止まってしまった。
「おにいちゃーん!! これどうやって動かすの?」
……深鈴って、こういうのゲームでやってたんじゃないのか?
「お前、ゲームとか見てて知ってるんだろ。自分で考えてみろよ」
「……え、やってないけど‼ ひどい! おしえてよー!」
ライルは深鈴を放って、先に進んだ。
もし、あのまま、あの具合が悪いまま、今もどこかにいるんだったら、あぶない。
「えっと、えぇーと。あぁ! もう、お願いだから、進んでーーー!」
あまりのスピードに声がでなかったのか、数秒後、後ろから叫び声が聞こえた。
そんなに強く願うからだよ。全く。
「おおお、おにいちゃっ……ひどい、私、死ぬところだったんだけど……」
「一回死んでるだろ。お前も俺も」
「……」
ヤバい。地雷を踏んだか……?
深鈴は、前世でもそうだった。自分が気にしていることを言われるの、一番嫌いなのだ。ライルも、幾度か踏んづけたことがある。その度に爆発している。
「……そうだよねー。でも、私、女神様に死んだぞって言われるまで、気づかなかったんだ」
「そう言われてみれば……うん、確かに」
俺も、最初は状況が上手く掴めていなかった。女神に言われて急に、全身に痛みが走ったのを覚えている。
「……お兄ちゃん。後で話があるから、よろしく」
「え、話って?」
深鈴は、ライルの言葉に目もくれず、スーッと、進んでいってしまった。
「そうだ。今はニトを……」
海沿いから、北であろう方向に向かって進んできた。そこは、大きな湖があり、四季折々の木々が、立ち並んでいたところだった。
話ながらも、ここまで、地上を見てきたが、ニトらしき影は見つからなかった。
一体どこにいるんだ……
『……ライル!』
「うわ、ビックリした。深鈴、急に呼ばないでくれ!」
そう言って、辺りを見回したが、深鈴は結構先にいて、声が届くところにいない。
え、じゃあ、今のは何……?
まさか、ニト? でも、空に飛んでこない限り、声は届かないよな。
『おい、ライル! 聞いとるかのう』
どこからか、確かに声が聞こえてきた。姿形はどこにも見えない。
「え、のう? ……クロヒ!?」
『おう、やっと繋がったわい。今、そっちじゃ、ニトっていう鶏を探してるんだろ? ……この浮気野郎』
え、今、最後なんて言った? 繋がったってそう言うこと? なんで知ってるの?
『あーあー、うるさい! 後で話す時間あるから! いまは、俺の言う通り、ニトってのを探せ‼』
分かった、深鈴を呼ぶよ。それからで良いか?
『本当にそこにいるかは、分からんが、行ってみる価値はある』
おう! いいぜ、当たって砕けろだ! ニトのためなら、なんだってしてやる!
『俺のライルが……変わってしまった。俺の……』
「おーい! 深鈴! 分かったぞ!」
その声を聞いて、深鈴は勢い良く戻ってきた。風の抵抗を受けているというのに、とても早い。
『おぉ、妹か。良かったな。会えたんだ』
「そうなんだ。最初は、殴り掛かってきたけどな」
「お兄ちゃん、誰としゃべってんの?」
「深鈴、それより今は、ニトのところへ行こう」
「はあ。どうやって分かったのでしょうか」
なんで、最後だけ敬語なんだよ。
どうでも良いところにツッコミを入れるライル。
納得していない、と言う素振りを見せた深鈴だが、とりあえず、付いてきてくれている。




