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病?

 044




  朝一番に起きたニトは、いつも通り『コケコッコー』。そう言おうとしている。


 コケコッ……


「ゴホッゴホッ、あー、もしかして、そろそろ限界なのか……?」


「……ん? おはよう、ニト。どうしたんだ?」


 何か、顔色悪いな。いつもより青白い。いつもは……真っ白だけど。


「あぁ、何かちょっと、具合が悪いみたいだ。ま、どうにかなるって」


 そう言って、スタスタと食事の準備をしに、川へ行ってしまった。

 ニト、大丈夫かな。具合が悪いときは、我慢せず、休むのが一番なんだけど。何て事の無い変化、なのか。昨日とは違って、誰かがいないわけでも、どこかへ行かなければならないわけではない。具合が悪くなったら、その辺で休めばいいし。別に焦る必要はない……


『今日は、ライルの大好きな、サンドイッチよ!』


 ……はず。じゃないっ! 俺は、帰らないといけないんだ。もとの世界に! ヒルムに!


『上級魔法陣じゃないと、転移できないんだ!』


 それに、魔法陣のレベルもあげなきゃいけない! いや、待てよ。そもそも、世界単位の転移って、門が無きゃ出来ないんじゃないの? 前にクロヒがそう言ってたよね。え、じゃあ、魔法陣を上級にしたとしても、出来ないっ!? ……もう、諦めようかな。帰れないなら、ここにいればいいよな……

  寝起き早々に、葉っぱベットの上で、頭を抱えていた。


「ららら、ライルーー! 見ろよこれ!」


「あ? なんだよ」


 抱えていた頭を戻し、ニトが走ってくるのを待った。とは言っても、ほんの数秒。


「これっ! 前に言ってた、『米』じゃないか?」


「米だって?」


「え、なにっ! 今米って言った! ねえ、言ったよねぇ!」


 朝ごはんの下準備として、薪拾いや水を酌みに行っていた、深鈴がとんできた。


「ニト! 本当!? 見せてっ」


 ……深鈴はいつからニトをニトと呼ぶようになったんだ? ……そう言えば、俺もそうなのか。いつからニトって読んでた?


「ほらっ、これだよ!」


 深鈴は手渡された、薄茶っぽい色をした、草をまじまじと眺めた。先端には、複数の粒々。皮らしき物に囲まれていて、中には、白い粒がひとつ。

 そこまでを確認して、深鈴は確信を持った。


「お兄ちゃん! これは、お米だよ! 早速調理しちゃお」


「やっぱり、米だったか? ……あっちの、川の、方に……」


 バタンッ


 ニトが言った方向に行こうとした時、背後で何かが倒れる音がした。


「ニト、……ニト!?」


「きゅ、救急しゃ……あ、いないんだ……」


 深鈴は、その場で立ち尽くす。

 いつもこうだった。何か思いも寄らないことがあったり、心配になったりすると、心だけはしっかり判断しているのに、体は頭は動こうとしなくなる。

 ……俺が、事故に遭ったときも、こうだったのか?


「とりあえず、日陰に!」


「え、あ、うんっ」


 反射的に返事をして動き出した。

 ニトは、俯せで倒れた。これでは、怪我をしてしまう。相当具合が悪かったのだろう。

 怪我をしないよう、考える暇もなかったのか。何をしてんだ……あんなに、大丈夫って言って笑ってたくせに。


「私が悪いんだ」


 ふいに、深鈴がそう呟いた。


「何で」


「きっと、私が……あんな洞窟なんかに、連れていったから……」


 それは、お前のせいじゃないだろ。それをやれって言った、女神が悪いんだ!


「深鈴のせいじゃーー」


「いや、私が悪い。ごめんお兄ちゃん。私は、お兄ちゃんになにもしてあげれなかった。だから、その償いの気持ちで、ニトに接していた。でも、ニトまで……!」


「まだ、生きてるじゃないか!」


「ううん。同じこと、言われた。お医者さんに……お兄さんは、まだ息があります。助かるかもしれませんって……」


 深鈴は、泣き出してしまった。顔を手で覆い、声をあげて泣いた。不安と不安に押し潰されていた。

 深鈴……


「あのどぎは、もうあぎらめでだ。だすからない、むりだ。そうおもっでた。お兄ちゃんを、信じきれなかった」


「……!」


「……ひっく……でも、でも今は違う! まだ、生きてる! そうだよね、お兄ちゃん」


 俺は、あのとき諦めていた。あぁ、死んだんだ。もういいや。別にやり残したこともないし。戻っても、また最悪な日々が続くだけだ。そう思ってしまった。

 クラスでは浮き、せっかく話しかけてくれた奴にすぐキレて。そして、学校にもいかなくなった。

 だから、もういいや。そう思った自分が確かにいた。そして、さっきもまた諦めた。

 俺は、何て奴だ。こんなにも深鈴が、過去と向き合い、今と戦っているのに。俺は、昔に囚われ、未来を見てる。


 バカか。何てバカなんだ。


「……あぁ、そうだ! 今できることをやろう。ニトを助けるんだ!」


「うんっ!」


 深鈴は、まだ、目尻に涙を残している。でも、希望に満ちた、今を生きる目をしていた。

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