深鈴が言った。
042
……どうやら、聞いていた通りらしい。女神に、転生をさせる代わりに、ある人物を殺すこと。そう言われたそうだ。
「……じゃあ、やっぱり、深鈴じゃないか!」
「……」
ゴミでも見ているかのような、眼差しを向けられた。
妹を傷付けずに、どうにかする方法……どうすれば良いんだ!? 魔法? いやそれだと攻撃してしまう。……浮遊……そうだっ、浮遊魔法を深鈴にかけて、空中に留めておけば、どうにか出来る!
心を決めたのと同時に、深鈴がライルに向かって走り出した。離れたところから、ジャンプしてライルに斬りかかる。
「隙ありっ! やぁっ!」
浮遊!!
すかさず、浮遊魔法をかけ、深鈴の動きを封じた。
「なに……? なんなのこれ? 魔法? いや、ダメでしょ、こんな拘束魔法! 反則! もうっイライラするーっ!」
そんなことを言いながら、じたばたと風の上で暴れる。
「深鈴、これは拘束魔法なんかじゃない。ほら、言ってたろ昔。浮遊魔法だ~って。あれだよ」
「私が、昔、言った? そんな。そんな事どうして知ってるの? なぜ君が知っているの?」
目の前で起こっていることが理解できていないようで、目を瞑り、頭を抱えている。
「だからさ、いったじゃん。深鈴なんだろって」
「嘘、そんな……本当に……? あなたは、誰なの?」
「……吏音だよ……深鈴」
「おにいっ……‼」
ちゃん、を言いきる前に、深鈴はライルに向かって飛んだ。ライルは、焦って浮遊を解いた。
「お兄ちゃん! 本当に、本当にお兄ちゃんなんだっ!」
深鈴は、自分の体格よりも遥かに小さい、ライルを思いっきり抱き締めた。
痛い……息が、できない……
「深鈴……首、首がっ」
「あわわわわっ! ごめんっ、大丈夫!?」
「いや大丈夫だけどさ、それより、ニトは?」
深鈴が無事だったのは嬉しいんだけど、とりあえず、ニトを助けなきゃいけない。深鈴が解放してくれれば、それで済む。
「……」
なぜか俯いて、なにも言わない。ライルが顔を覗き込むと、深鈴は顔を真っ赤に染めていた。
「深鈴?」
「あ、えっ、ううん! なんでもないっ」
そう言って、深鈴は洞窟の奥へと消えた。
なんだ? 急になにも言わなくなって、体調が悪いのか? 大丈夫かな。
ペタペタペタペタペタペタペタッ
洞窟に響く、ペタペタと言う足音。
……ニト?
「おいっ! ライル! いるか!?」
やっぱり、ニトだ!
「ニトっ!」
ニトは、思いっきり走ってきた。いや、猛スピードで、突っ込んできた。尋常じゃない速さのニトは、ライルの一歩手前、ギリギリで止まった。
「……ニト……? お前、どうしたんだ? そんなに、足速かったか?」
「あぁ、これか。実はそこの嬢ちゃんに教えてもらったんだ! 凄いだろ? 完璧にマスターってやつしたんだぜ! ライル、お前に教わるーー」
いまだに、自分の自慢話を続けている、ニトをよそに、ライルは深鈴の方へ駆け寄った。
「深鈴、ありがとう。ニトの面倒見てくれてたんだな」
「……あんなチビがお兄ちゃんだと思って、話していると、違和感しかない。どうしよう、散々さっき、お兄ちゃんって言ったのに、お兄ちゃんって気がしなくなってきた……どうしよう」
深鈴にはライルが見えていないようだった。どこにも焦点があっていない。
え……? 困ったなぁ。深鈴の妄想が始まってしまった……




