海沿いの洞窟
041
砂浜に足が届く辺りで、足元で、呼ばす役割を担っていた風を逃がす。
この近くに、その洞窟があれば、手っ取り早いんだけどな。
空を見上げると、ぎらぎらと燃える太陽があった。
「それにしても、暑いな。どっか、日陰で休もう」
魔法を、長時間継続して使ったせいで、大分体に来ているようだ。踏み出す足が、ぐらついている。
周りを見ると、崖になっている所が、少し窪んで、日陰になっている。
ちょうど良い。あそこで休もう。
「さて……これからどうしたものか。このまま、海岸を歩いても良いが」
……それだと、途方にくれてしまう。でもそれ以外に、どうやって探せば良いんだ?
森で声を聞いたのだから、そう遠くには行っていないはず。俺みたいに、魔法が使えたら別だけど。
「はあ。今日はここで休むか」
そう言って、上を向いた。今にも崩れてきそうな、崖に、今さら気がつくライル。
「うわっ、」
慌てて、立ち上がる。
……うわっ……うわっ……ぅわっ……ぅっ……
声が、響いた?
確かに今、ライルの発した声は、奥まで響いていった。情けない声が、残り続けた。
「声が響いたってことは、奥が、先に続く道があるのか?」
窪みの左側に、大人一人がギリギリ入れるくらいの、穴を見つけた。
これは、洞窟の入り口と言うか、秘密基地の入り口みたいだな。
そんなことを思いながら、穴を潜る。
先は、広い空洞が広がっており、奥から何が出てきてもおかしくないくらい、真っ暗だ。
「すみませーん、誰かいますか~!」
いるわけがない。
いるわけないか。いてもせいぜい、探検家くらい。それか、かくれんぼで、遊んでいるか。隠れるにはもってこいだな!
「いるよーーー! どちら様ー?」
「……」
予想外の返答に、思わず黙り混んでしまう。
「あれー? もしかして、、ライル君かな?」
そう言っている声が、次第に近づいてきた。そして、その姿を見せた。
「やあ、君がライル君かな? 可愛い顔をしているんだね!」
「みれ……い……?」
陰から出てきたのは、紛れもない、ライルこと吏音の妹、深鈴だった。
段のついた黒髪を、二つに束ねている。凛とした顔立ちに、その黒髪は美しかった。
動きにくそうな、ポンチョに、半袖のシャツを来着て、すぐ、風に煽られてしまいそうな、スカートを着る。
腰には、日本刀のような刀がある。
「さーあて、これからどうする?」
「お前、深鈴だよな?」
「……人違いじゃない? 私、君を知らないよ」
深鈴じゃない? そんな、嘘をつけ。剣道が好きで、中学生になったら、剣道をすると言っていた。この世界に、日本刀は存在しない。だから、転生者なのは決まっている。俺みたく、前世で……! 前世で、死んだ……?
「君の親友、ニト君を返して欲しければ、私を倒していきなさい。ま、負ける気は更々無いけどね」
「……戦う以外の選択肢はないのか!? 深鈴!」
「だーかーらー! 人違いだって! 私は深鈴だけど、君の言っている深鈴じゃないと思う!」
そんな。
深鈴じゃない、そうはっきり言われ、全身の力が抜けた。その場に崩れ落ちそうなライルに、女は、言い放った。
「良い? 私は、女神から、あなたを殺すよう命じられたのよ!」




