春に食べるものなんだけどね。あるかな?
036
「で、そのタラの芽は? どこに生えてんの」
「本当は、春にできるものなんだけど、今って、いつ?」
「いつ? なんの話だ? 太陽が真上にあるから、昼間と言われれば昼間だが……そもそも、はるってなんだ?」
へぇー。にわとりなのに太陽で時間が分かるのは知ってるんだ。……は!? 春を知らないのか!? 春と言えば桜、桜と言えば花見、花見と言えば桜! 心地よい風に吹かれて、それはもう最高だ。卒業と言う悲しいことも、新生活と言うワクワクも、春だからこそ感じられることだろう?
「お前、春を知らないのか? ほらあの、桜が咲いている時のこと!」
「桜だぁ? んなもん、ずっと咲いてるぞ。ほら」
と言って、ニトが羽を指した方には、桃色に染まった山々だった。
あれは……桜だ……でもなんで? ここには、生えてないし、気温も高い。あそこだって、同じはずなのに……!
「……ライル、お前って、本当にこの世界の奴じゃないんだな。どっから来たんだよ」
呆然と山を見つめるライルを見て、ニトがそう言った。
「え? どこからって。人間が住んでるとこ。ヒルムって言う世界だけど……」
「お前もか……」
「お前も?」
「いや、何でもない」
今確かに、お前もって言ったよな? 他に誰かに会っているのか? 俺以外の人間……そう言えば、何故だ? 何故、女神は俺をここに転移させたんだ? ヒルムにいれば、俺の妹、深鈴が俺を殺しに来るってのに。俺と、深鈴を遠ざけてどうすんだ?
「……仕方ない。今日は、キノコ汁とキノコ焼きだ」
どうやら、ニトはライルの言っていた『タラの芽』を諦めたようだ。
「……? ってことは、俺、一緒に行って良いのか?」
ニトは相変わらずスタスタと行ってしまう。
「あ? 誰がそんなこと言ったよ?」
「え、タラの芽は? いいの?」
「知らねーよ。そっちの世界にあったって、この世界にはあるか分かんないんだろ? とりあえず、今日は面倒見てやる。その辺で、ぶっ倒れても困るからな」
なんだ、優しいんじゃん。もっと愛想がよければ、絶対人気者になれるのにな~。今のままだと、魔王とかお似合いだよな。
「おい、早く準備しろよ!」
「あ、うん!」
そう言えば、キノコとは秋に生えてくる植物だよな? 真夏のような太陽の下でよく育つよな。
……まさか、だとは思うけど……季節関係なく、どこにでも生える訳じゃないよな? ま、そんなわけないわな。
「いっただっきまーす!」
「おう、食え食え! 今日はサービスだ!」
俺がほとんど調理したんだけどね? にわとりさん材料持ってきただけだよね?
「おぉ? どうしたよ? 食欲無いのか? 全部もらってやっても良いぞ!!」
ニトは、食事のことになると、テンションが上がるらしい。料理バカ。と言うより、食事バカ。
「いや、にわとりさん、俺、食えるから。ちゃんといただくから!」
「なんだ! お前も料理、好きなんだな! さっき、料理作ってたとき、不思議な作り方してたよな? あれは何なんだ? 教えろよー!」
酔ったように、ニトはライルに寄り、ライルの頬に、頬をと言うより顔をすり付けた。
「……痛い。くちばし刺さってるから! やめろにわとり!」
「む、俺はにわとりじゃなくて、ニトなんだよ! で、良いから、どうして水にキノコをいれて、塩をいれたんだ?」
「あれは、スープって言うんだよ。本当は、コンソメとか、味噌とかあるともっと全然美味いんだけどな」
にわとり……じゃなくて、ニトが偶然にも塩を持っていたので、塩と水をいれてキノコを入れたら、スープみたいになるかなと、人生初の試みだった。
実際、うんと不味い。言うまでもない。塩しか入ってないのだから。
「へー、スープねぇ。今度、作ってみよ。俺が今まで食べたなかで、一番美味い! 塩って結構入れた方が良いんだな!」
今まで、何を食べてきたんだよ。この薄味で、この不味さで、美味いって……
「そうだ! ライル! お前みたいな奴が、二日前くらいに、同じところで倒れてたんだ。気を失っているようだったから、日陰に引っ張っていったんだけど、水をくみに行っている間に、どっか行っちまったんだ。知り合いとかじゃないよな?」
「うふ? ひりはい? うー、おうはろ。おふなはっは?」
「……汚い。行儀悪い。最低。聞こえない」
女子みたいなこと言うなよ! 二日前に、人間が倒れていた。人間のいない世界にそんなことが起こるはずはない。だったら、あの女神がやったとしか思えないな……
「女だった?」
「ああ。お前より大人っぽくて、でも身長は145センチくらいだったかな? ……あ、いけね。言わないようにしてたってのに! つい言っちまった」
さっき言おうとしてたのは、この事だったのか……それにしても、ニトが変なんだよな。愛想が良くなったって言うか。本当に酔ったんじゃね? にわとり酒は、料理なのか?
「とりあえず、その人間を探した方がいいな」
「お、なんだ? やっぱり知り合いだったのか?」




