人が居ない世界。
034
ツンツン、ツンツン
んん……ん……?
「……痛っ。痛いなぁ……」
そっと、目を開けると、青い空の端っこに影が写り込んだ。誰かが、顔をつついている。白い毛並みに、赤いたてがみ、黄色いくちばし。
「ににっ……にわとり!?」
「ココッ! コケ? コケコケコケー!」
「な、なにを言っているんだ?」
……確か、スキルに言語理解があったはず。そのうち、理解できるようになるか……?
「コケコケコケー! ココッ! コケーッ!」
何分経っても、理解できるようにはならなかった。仕方なく、その辺を散策しに行く。
……俺は、やっぱり転移させられたのか。ここはどこなんだろう。やっぱり、人間は誰も居ないのか?
鳥が木の上で鳴いていて、魚が自由に川を泳いでいて、虫が草むらを走っている。
自然って、凄いな。今まで、こんなに綺麗な場所は見たことがない。
そこは、一面の野原。木々が程よく日陰を作り、そこに射し込む日差しが輝いて見える。近くには沢があって、水を飲みに来る動物たちがくつろいでいる。遠くには、山があって頂上は、雪を被っている。
すごい。人間が居ない世界とは、こんななのかな。機械とかない世界って、こんなに美しいんだ。……本当に綺麗だ……!
「やぁ、少年! 君はこの世界の者じゃないね!」
いきなり後ろから声がした。
ここには、人間は居ないんだよな? じゃあ、今俺が聞いた声は、空耳か?
「聞いているのか? 少年! 俺はここだ! こっち見ろ!」
「……え!?」
振り返るとそこには、先程のにわとりが立っていた。
何を喋っているかが、わかる。数分して、効果が出たのか?
「で、質問に答えろよ。あぁ、お前、俺の声が聞こえてないのか。なぁーんだ。話しかけて損した~」
等とぶつぶつ言いながら、離れて行ってしまった。
「あの……にわとりさん?」
「おぉー! お前、俺の言葉分かるのか!」
「それで、貴方は?」
「俺? 俺か? 俺はな……にわとりの、ニトだ! かっこいい名前だろ? な? そう思うよな?」
……うざい……俺様とは言わないものの、これはもう、オレ様キャラ全開。俺でも知ってるぞ! オレ様キャラは、こんな風にうざいんだろ?
「は、はあ」
「俺にはな、姉と兄がたーくさんいるんだぜ!
すごいだろ!」
にわとりにも、名前があって、家族がいて、兄弟がいるんだな。いや、まあ、当然なんだけど。
「それでな、それでなっ!」
「にわとりさん」
「ん? なんだ? 何か用か?」
いやいや、にわとりさんが俺に話しかけてきたんですよね? それで、何か用か? ってないでしょう?
「あの、にわとりさん。何か用ですか?」
「俺はな、にわとりじゃなくて、ニトだっての!」
そんなもん知らんがな! 初対面のやつに、そんなふうに親しく出来るかよっ! そもそも、初対面のやつに、自分の情報をべらべら喋るなよっ!!




