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転移

 033




 ……もう、夜か……

  窓の外に見えた、星空は光り、輝いていた。

 あぁ、もう、やだな。これまでずっと練習だなんだって言われてきて。昨日はあんな夢見たし。

 今度こそ、本当に死ぬのかな? 交通事故の時みたいに、なにも感じないのかな? 死ぬって、どんななんだろうな……

 ……バカだなぁ。あいつに、一泡ふかせるって、言ったのにな。そんな心配ばっかしてちゃ、妹にも勝てないよな。どうにかして、戦わない方法とかないのかな。あぁ、もうちょっとポジティブに、いつもやって来たように、変わろうとしたように。もっと、明るく。もっと、気を長く。


  近くにいるはずのクロヒは、なにも言わなかった。ライルに気を使っているのだろう。

 少しは、話しかけてくれた方が良いのになぁ。


「……なぁ、クロヒ」


『ん?』


「転移って、お前もついてこれるの?」


『……無理だ。自力で転移しようとしたら、神界を経由しても、数年はかかる』


「俺が思っているより、今起こっていることは、大変なことなのか?」


『あぁ。宇宙が滅亡するに等しいんじゃないか。何せ、神がそんなことしてるんだからよ』


 ……そうか。そうなんだよな。何か俺、おかしくなったのかな。何て言うの? 明日が修学旅行で、眠れなくて、空回りして、ハイテンションで、なにも考えられなくなるような感じ。


 いつ、何が起こるかわからない状況で、悠々と過ごしているわけにもいかないことくらいは、承知している。でも、俺はこういう空気は嫌いだ。二度と感じたくないと思った空気に等しいから。

 あいつが動き出すのは、明日かもしれない。数時間後かもしれない。数分後かもしれない。



「ケケケッ、お待たせ。準備できたよ」


 突然、どこからか女の人の声が聞こえてきた。


「お前は!!」


 ベットに寝転がっていたライルは、立ちあがり、辺りに注意を向けた。


『ライル!』


「わかってる」


 お互いの顔を見合い、声の主に話しかけた。


「お前は、何をする気だ!」


「あっれー? もうとっくに気が付いてるのかと思ってたけどな? ま、いっか。私はね、ただ面白いことをしたいだけだよ。見てて、飛びっきりの最高の奴!」


「どう言うことだ」


「つまり、私よりも幸せそうに人生を送っていた奴が……苦しそうにその辺を這いずり回っているところが見たい。で、わかるかな? ケケケッ、最高! そう言う顔好きだよ~復讐心に燃えてるってやつ? ケケケッ、カカカッ!」


  声しか聞こえないが、とても楽しそうに、とても残虐なことを、ケラケラと言ってみせた。

 ふざけるな……ふざけるな……!!


「人で遊んで、何が面白いんだ!」


「まだ分かんないのー? あ、でもそれはまた生きて会えたらね? じゃねー!」


  声の主が、最後の一言を発したと同時に、ライルの周りに、魔法陣が現れた。

 これは……転移!? 俺が造ったやつと一緒だ。なら、転移を発動させれば、こっちに帰ってこれる?


『ライル! それは無理だ! これは、上位魔法陣! お前のは、中位だ! どうにかして、行ってみる! だから、お前もーーそっちーー』


  ライルの体が宙に浮き始めた。抵抗は出来ず、そのまま、呑み込まれていった。

 最後の方が聞き取れなかった。 俺はこれからどうすればいい? 魔法陣が中位だと言うなら……


 ぷつんと、なにかが切れた。

 意識が、遠い世界に流れていった。

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