まさかの中止、あの日の作戦。
031
ダンダンッダンダンッ!
「ん……んん? もう朝なのか……」
ダンダンッダンダンッダンダンッ!
三日前くらいにも、レミスに起こされたよな。また、レミスか?
「はーい。開いてますよー」
「おお、そうなの! じゃ、入るねーって、違うから、違うからね? ライルさん! レミスさんにはもう言ったのだけど、今日の属性屋の見学中止になっちゃったから、一日お休みね!自由に過ごして!」
「今日の見学……中止? は、はあ、分かりました」
「じゃね!」
全く先生らしくない、先生がカツカツとヒールの音をたてて、遠ざかっていく。
「今日の見学は中止か……マジか。一日自由になったぞ! クロヒ! 聞いたか! 休みだ!」
『へぇ、へぇ。聞いてますよ。見学、楽しみにしていたんじゃないのかよ!』
うーん。まぁ、3年前くらいに行ってるし、いいんじゃないかな。でも、何でこのタイミングで中止なんだろう? 何かあったのかな?
『さーあね。で、何をするんだ?』
「せっかく、自由なんだから、決まってんだろ。今後の対策さ」
……時が過ぎること2年ちょっと……
ある、冬の午後7時。ライルの自室。
「おい、クロヒいるか?」
『何だよ』
「俺、あと一年で、卒業だぜ?」
『お前が卒業か。信じられんのう』
……その喋り方は、結局直らなかったよな。聞いてて違和感すらなくなってきたよ。
『何だよ、その言い方』
……なぁ、クロヒ。俺がもし、急に居なくなったらどうする?
『どうするもなにもないだろ。探しに行くさ。それに、お前が急に居なくなるようなことなんて無いだろ?』
「……そうか。その言葉を聞けて嬉しいよ」
今思い返せば、昔のこと。会ったばっかりのレミスや先生と見学にいったり、装備屋で思いもよらない出会いがあったり。そんな、日常があれから2年続いた。そして、そんな日常もあと1年しかない。
……楽しかったな。
2年の時の、キャンプファイア。学校の敷地内の森で、一日を過ごした。大勢でそこにいれば、楽しいキャンプファイアだが、先生含め3人と言う少なさだから、そうでもなかった。
そう言えば、あの時、レミスが何かを話したそうにしていたけれど、それを聞くタイミングは無かった。
今年の夏。海にいきたいと言い出したレミスに、プールならいいんじゃないか。そう提案したら、学校にプールを造ってしまった。まあ、お陰さまで、皆楽しめた。
来年は毎年4年生が行く、王国の北、未開拓地の魔物捜索があるらしい。魔法が使えるからと言って、10歳にならない子供を連れ出すのはどうかと思う。魔物だぞ? 大人数人でも一匹処理できないのに、子供にやらせるか? 魔法使いは、大変だな……俺もその一人なんだが……
何故こんなことを俺が考えているのか。何故今までを振り返っているのか。
昨夜、夢を見た。
暗闇に一人たたずみ、にやにやと笑っている女を見た。
あれは、間違いなく、あいつだ。
女神だ。
そして、言っていた。
『見えてるか? ライル君? 私は、君の妹と約束をしてしまったのだよ。君を殺してってね。だから、そのうち会えるはずだよ。いや、私が、無理矢理そう仕向けておいた。覚悟をしておくといい。そう易々と、日々が幸せが手に入ってたまるものか。お前には、もうしばらく踊ってもらうぞ? ケケケ、ケケケケケッ!』
そして、また一言。
『人間のいない世界、レイリムはお前の墓場となるだろうな!』
だから、俺は覚悟を決めた。この為に、俺は、あの日、作戦を練ったんだ。