ライル・リ・トリーユ
001
……こんな暗闇でどうしろと……?
状況整理しよう。うん。
よくわからない女神の遊びに巻き込まれ、転生させられ、体内時計で2時間ちょい。目の前は変わらずまっ暗闇で、身動きは全くとれない。
イコール、詰んだ状態。
……俺はここで何をやらされているんだ……転生したんなら、どっかの草むらで目を覚ますとか、もっと綺麗な展開を想像していたんだが……このまっ暗闇、、、
そう言えば、耳元で誰かが喋っている気もしなくはないんだよな。ほら、死んだときみたいに、耳だけが聞こえている……みたいな?
「ーーさん。ほら、可愛らしいーーですよーー」
ん? やっぱり、人の声だよな……?
「おはよう! 聞こえてるのかしら?」
「はい。聞こえているとは思いますよ。じゃあ、私は失礼しますね。明日の退院の準備を、今日中に終わらせておくようにしてください」
「あ、はい! ありがとうございました‼」
ガチャン。
なんだ? 明日、誰かが退院するのか? ってか、俺は誰の会話を盗み聞きしているんだ……?
立派な犯罪を犯しかねないぞ。
「赤ちゃんってのは、ピクリとも動かないのね。お人形さんみたいな可愛い顔してるわ。んー、パパ似かしら? イケメンになるわよ~!」
女の人が、自分の赤ちゃんに話しかけているのか…なんだ、会話からするに、ここは病院なのか。じゃ、隣のベットで寝ていたとしたら、盗み聞きじゃないか。うん。良かった。……犯罪じゃなくて良かった……
「赤ちゃんなら、もう少し泣いて欲しいものね。静かすぎるわ。つんつん。生きてるよね?」
つんつん。って、いや待て、俺の頬につんつんって感覚が……
「プニプニ。つまんでも、泣いてくれないの?」
いてぇ。つままれた感覚があるんだが? 俺は、病院のベットで自分のほっぺでもつまんでいるのか? いや、体動かせないから無理だ。じゃあ、何で?
「ゆらゆら~。ブランコの要領よ。これで、泣かなかったら、次は何をすればいいのかしら?」
どうしてそんなに自分の赤ちゃんを泣かせたいんだよ!! 周りの人に迷惑かかるだろうよ!?
……うぐぅ、まって、吐き気がする……何で? ベットが揺れてんの? ……いや違うのか!? さっきからの、体の感覚は、俺が、、、
女の人の赤ちゃんってことか!?
うぐぅ……まって、、揺らさないで……やめて。吐き気が止まらなくなるからやめて。
「何で、泣いてくれないのかしら!! こうなったら、こちょこちょね!」
ああ、もう! 泣きゃいいんだろ? 泣きゃ!
え、どうやって泣くの。悲しいこと思えば泣ける? それとも、この気持ち悪さを表現すればいいの? 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い……うえぇ……
「うなぁぁぁぁ!!」
「あらまぁ。盛大な泣き声。こんなに大きな声だと、周りに迷惑が……どうしましょう?」
や、止んだ。揺れが収まった。何かもう、疲れた……本当に自分が、赤ちゃんだったのか……思考回路が、もうショートしそう。1からやり直せって、赤ちゃんからって意味?
とりあえず、周りのことも考えて、泣き止んだ方がいいよな?
「……泣き止んだ。ピタリとやんじゃったのね。あなた、まるで、私のいっていることが分かっているかのような反応よね。じゃあ、もし、あなたが大人になって、私に理解できないようなことが起きたら、あなたを信じるわ」
え、なに今の言葉。重い……今までの台詞からは考えられないような、壮大なことを言っておるんですが…?
「じゃなくて、名前決めないといけないのよね? あなた。じゃあ、ちょっと言いづらいしね!」
戻った。
……名前かぁ。……前世の名前は吏音だったけどなぁ…前世? いや、転生してきたから、向こうの世界は現実世界になるのか? ん、でも、赤ちゃんからこっちの世界に存在していることになるから、向こうの記憶は、前世の記憶でいいのか? 俺は、その辺よく知らないからな……妹なら、バッチリわかるんだろうけど……いいや、前世ってことにしよ。現実世界じゃあ、長ったらしいもんな。
「じゃあ、ライルにしましょう! 何かかっこいいし! パパに勝手に決めたことは、内緒ね! ま、どうせバレるんだけど」
ら、ライル!? まぁ、かっこいいけど結構すんなり決まったな。かっこいいけど……
「パパが帰ってくるのは、明後日ね。それまで家にいましょう。明日帰れるから」
明日かぁ。きっと今日は長いんだろうな。視界も戻らないし。目、開かないかな。ぬぐぐぐぅ…頼む! あいてくれぇ! イケメンだと言う父さんの、お相手である、母さんの顔が見たい!! 開けーーー!
……あ、視界が晴れた。白い天井が見える…? 母さんの顔も…これが母さん? え、超美人じゃね?
「目が開いたのね!? 金色の瞳も、パパそっくりね。おはよう。ライル・リ・トリーユ!」