1.突然舞い降りた縁談
ある国の高貴な貴族の令嬢は、座っていても笑っていても絵になるような少女でした。
その貴族とは東に位置する公爵家の一人娘であり、ほんわかした容姿を持つ子ではあるが、性格はとてもしっかり者で物事をはっきりと決めるような、容姿端麗であり文武両道な少女でした。そんな少女の名前は、エリティナ・フォン・ロバート。
ロバート家と云えば、文武両道で容姿端麗な子たちが揃いもそろうとされる名家で、エリティナの兄であるレオンも近衛騎士団の第一騎士団の団長をしている。歴代にも王国に貢献した者達が勢ぞろいしており、今でも王家が信頼している貴族である。そんなそうそうたる家の中でエリティナも聡明さと美しさは皆と同じでだったが、一つ難点があった。それは引きこもりであること。部屋に引きこもり裁縫を黙々としているような令嬢で、両親にも心配されている。尚、この少女は誰もが認める美しい銀色の髪を持ち、唯一ロバート家のみが持つとされているアメジスト色の瞳をしている。
そんな少女の元にある日突然、言い渡された衝撃の言葉が昨日の出来事…、
***
「お父様、お母様どうなさったの?」
朝の準備をしているときにエリティナはいきなり両親に書斎に呼ばれ、二人のもとにやってきた。
二人はとても真剣な顔をし、いつもの様な穏やかな雰囲気とは違っていてエリティナは少し戸惑う。
それに、いつもは居ない兄のレオンまでエリティナの傍に居る。
「あのなエリティナ、お前に縁談が来た。それも第一王子の妃としてのだ。」
その言葉にエリティナは吃驚して立ち上がった。
隣に座っていたレオンがエリティナを座るように宥める。
「えぇ?!、あのエディーラ殿下との縁談ですか?なぜ私に、いきなり。」
「そうよね、おかしいとは思うわ。エリティナは王太子と面会した事がないはず…あ!!ありましたわ、小さい時に一度だけですけど。」
そう、エリティナは小さい時に一度だけ王太子に会ったことがある。それは、王太子がガーデンテラスで読書中に、エリティナが声を掛けに行っただけの話である。
「そうでしたね、ですが、それがどう繋がってエリティナと婚約すると言う話に?」
不思議そうにエリティナを見ながら、レオンは考え込む。
それに、と繋げながら口を開いた。
「エディーラ殿下は正妃様が亡くなるまでは公に出ていらっしゃいましたが、王妃様が亡くなった後はぱったりと姿を見せていませんよ。しかも、この15年間以上も。」
そう、この国の正妃と側室は何年か前に相次いで亡くなっていた。側室は正妃の没後に正妃を継ぎ、数年後に亡くなっている。この国の王子は三人存在し、第一王子のエディーラ、第二王子のヴォーディ、第三王子のロンディアといるが、この三人の中で一番多く公やパーティーなどに参加しているのが第三王子であるロンディアだけである。ヴォーディはエディーラの補佐に回る存在で執務も同じくらいにこなして穏やかな性格の王子である。エディーラの性格はヴォーディよりも優しい心を持ち、成績優秀で博学な王子と評されているが、この15年間は公に姿を現していない。ヴォーディ王子は偶に公に出ることがあるので王城にいることが証明されているが、エディーラ王子は小さい頃の姿しか貴族や平民達は知らないのでどこにいるのかも分からない状態である。
「んー、エリティナはどうしたい。エディーラ王子と婚約するか?本人が嫌がっているのならば王族側も断っていいと言っているが。」
エリティナは元々、第三王子の婚約者であったが王子に他に好きな人ができたと言うことで破棄した経緯があり王族側はその点を考慮しているのであろう。だが、エリティナは何も気にしていないようで第一王子の婚約を受け入れるつもりでいた。
「お父様、昔の話はいいのです。わかりました、その縁談お受けします。」
そうして、王城へ婚約の手続きをしにいくことが決まったのでした。