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短編集

卑怯者

作者: 三郷 柳


 私はとんでもない卑怯者だ。


 妹の告白で、私が存在するに値しない人間だということを知った。今まで薄っすら思っていたことが確信に変わった。

「あたしの学費は、ミチお姉ちゃんの不妊治療のお金から出してもらってるんだ。お姉ちゃんは昔体を売ってお金を稼いで、自分の学費とあたし達のミルク代とか出してくれてたんだって。その時に中絶の手術をしたから妊娠しにくくなっちゃったんだって。だから、そこまでしてもらってあたし、学校辞めたいなんて言えんなぁ」

 ミチお姉ちゃんは私たちの年の離れた姉のことだ。3年前に結婚して、去年流産を経験した。

 妹からこの話を聞いたとき、私はどうしようもない感情を覚えた。

 足元が崩れていくとはこのことかと、生温かった世界が干からびた戦場のように変わった。

「私今、何の上に立っているんだろう」

 ぞっとした。

 父と母が稼いだお金と整えてくれた環境。姉が体を売って仕送りしてくれたお金。姉が自分のやりたいことを我慢して作った時間。やっと幸せになれたのに失った赤ちゃん。

 私今、何の上に立ってる? 私の足元は何でできてる?

 誰かの犠牲だ。

 私は姉の幸せを踏みつぶして立っているんだ。そのことに気付いていなかったんだ。知らないくせに、病気だ障害だ、生きづらいだ死にたいだと騒いでいたのだ。

 なんて愚かなのだろう。

 一人で立っていられなくとも、地面は私が築いたものだと思っていたのだ。それさえも、姉の人生が犠牲になっていたとはつゆ知らず、私はのうのうと生きていたのだ。

 私はこの現実に、どう反応したらいいのかわからなかった。

 こんな私など消えてしまえと思った。生かされている分際のくせに。

 消えたいと思うのは所詮、受け入れがたい罪悪感から逃げたいだけ。

 それにこの期に及んで自分の感情を守ろとしている私は、見るに堪えない卑怯者だ。


 それなのになお、私は自分の生き方ばかり考えてしまう。

 積み木のように、日々を経験と名付けて積み重ねている。

 一番下の地面が何でできているのか、見ないふりをして。

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