好き? 嫌い?
新しくできた霊園は、さながら花畑のようだった。
真新しい墓石に、供えられたばかりの花々。
喪服の人々は家路について、空が喪服を着込む時刻。
真っ白なワンピースをまとった少女がおもむろに、供えられた菊を花瓶から抜き取った。
辺りには、少女の他に、誰も居ない。
「あの人はあたしのことを好き、嫌い、好き、嫌い、好き……」
花びらを一枚ずつむしっていく。
望む答えが出なかったのか、少女は頬を膨らまし、隣の墓の花に手を伸ばした。
「あの人はあたしのところに帰って来る、来ない、来る、来ない、来る……」
今度も駄目だったらしい。
少女はさらなる花を求めた。
「あの人は今も生きている、生きていない、生きている、生きていない、生きている……」
少女の顔がパッと明るくなった。
弾む足取りで次の花を探す。
「あたしは生きている、生きていない、生きている、生きていない、生きている……」
少女は冷たい地面にへたり込んだ。
「……そう……そうなのね……だからだったのね……」
風の音もない。
虫の声もしない。
「ウアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
少女の叫び声が広がり、墓地に供えられた花々が、百合もコスモスも一気に散った。
少女は墓地を走り回った。
何度も転んで、墓石に体をぶつけて、それでも痛みは感じなかった。
墓地の隅っこにたった一輪。
花びらが一枚だけ残っている花があった。
その花びらの、細長い特徴的な形のおかげで、かろうじてそれが菊だとわかった。
「あたしが迎えに行ったら、あの人は喜んでくれる?」
占いにならない。
花びらは、一枚だけしかないのだから。
その一枚をむしり取り、少女は高笑いを上げた。
血のように赤い月の下に、少女の笑い声と、軽やかに立ち去る足音が響いた。