表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

好き? 嫌い?

 新しくできた霊園は、さながら花畑のようだった。

 真新しい墓石に、供えられたばかりの花々。


 喪服の人々は家路について、空が喪服を着込む時刻。

 真っ白なワンピースをまとった少女がおもむろに、供えられた菊を花瓶から抜き取った。

 辺りには、少女の他に、誰も居ない。


「あの人はあたしのことを好き、嫌い、好き、嫌い、好き……」


 花びらを一枚ずつむしっていく。

 望む答えが出なかったのか、少女は頬を膨らまし、隣の墓の花に手を伸ばした。


「あの人はあたしのところに帰って来る、来ない、来る、来ない、来る……」


 今度も駄目だったらしい。

 少女はさらなる花を求めた。


「あの人は今も生きている、生きていない、生きている、生きていない、生きている……」


 少女の顔がパッと明るくなった。

 弾む足取りで次の花を探す。


「あたしは生きている、生きていない、生きている、生きていない、生きている……」


 少女は冷たい地面にへたり込んだ。


「……そう……そうなのね……だからだったのね……」


 風の音もない。

 虫の声もしない。


「ウアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 少女の叫び声が広がり、墓地に供えられた花々が、百合もコスモスも一気に散った。

 少女は墓地を走り回った。

 何度も転んで、墓石に体をぶつけて、それでも痛みは感じなかった。


 墓地の隅っこにたった一輪。

 花びらが一枚だけ残っている花があった。

 その花びらの、細長い特徴的な形のおかげで、かろうじてそれが菊だとわかった。


「あたしが迎えに行ったら、あの人は喜んでくれる?」


 占いにならない。

 花びらは、一枚だけしかないのだから。

 その一枚をむしり取り、少女は高笑いを上げた。

 血のように赤い月の下に、少女の笑い声と、軽やかに立ち去る足音が響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 花占いをして、好きなあの人に会いに行く……ロマンチックですね(違) [気になる点] 開始が和ホラーっぽくて、落ちが洋ホラーっぽい。 まあ、どっちもすきですけど笑 [一言] 2年前の作品と繋…
[良い点]  短い文字数の中に、少女の「哀しみ」と「狂気」が入り交じっていたのが良かったです。  後、菊の花を用いる事で更なる「哀しみ」を演出していたと思います。 [気になる点]  強いて挙げるなら、…
[一言] なんだか、ヒガンバナと菊の話の時のことを思い出しました。 夕涼み重陽会、参加いただき、ありがとうございました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ