第2話 女神様降臨!?
これは懐かしい夢だ。真琴は中学時代の夢を見ていた。そこには自分だけでなく、宗司も楓もいてバカみたいな話を繰り返している。
勉強の話や部活の話など。3人が集まれば話す内容に困らずに長い間話していられた。
こんな夢を見ていると宗司と楓を失う前の記憶がフラッシュバックする。
例えば宗司は俺や楓と話すことに夢中になりすぎて課題の提出期限を忘れたり部活の練習をすっぽかしたりしすぎて先生たちに怒られていたこと。なぜか俺も巻き添えを食らって怒られたこと。
楓には試作したクッキーの試食を頼まれ、クッキーを口に放り込むと危うく昇天しそうになって、宗司のおかげで何とか帰ってこれたりとか。
……………………………………。
(……………あれ?あの二人と一緒にいたときってこんなにも理不尽だったっけ?なんか命の危険もあったし…。)
ちょっと不安(?)になった真琴であった。
そして急に視界が暗くなる。気が付くと場面は変わっていた。二年前のあの日。事件のあった日の場面。なんで今更そんなことが夢に出てくるのだろうか。
そう考えていた時、見えていた景色に靄がかかったような違和感を覚えた。
「んぁ…?ここは…どこだ?」
気が付くとそこは何もない空間だった。
(さっきまでは確かに外にいたはずだ…。それで子供を助けて自分は…!)
怪我をしていたことを思い出すと自分の体に視線を向ける。
しかしそこには何も違和感はなかった。
トラックにはねられたのだ。本来ならば擦過傷や打撲、骨折や流血があるはずだった。勿論それなりの痛みも。
が、今真琴の体には全くの違和感がなかった。むしろ今まで以上に調子が良かった。
(ただ、何故怪我の痕跡が無くなったんだ…?それにここは病院……というわけでもなさそうだ)
怪我についてはいくらでも説明は聞く。例えば今の今まで昏睡状態で自分には一瞬に感じられても実際は年単位で時間が進んでいたりだ。
しかしながらそれではこの空間に対して説明がつかないのだ。
真琴は目を開き周囲を見渡す。ただそこには何もない。物だけじゃない。床や壁、扉、窓。全てがないのだ。自分が立っている床でさえ本当に存在しているのか不思議なのだ。
あまりにもおかしい。そう感じた真琴は、目覚めたばかりの体に鞭を打ち、自分が置かれた状況の分析を行うことにした。
1、引きこもっていた
2、飲み物を買いにコンビニへ向かった。
3、横断歩道で飛び出した子供を助けた
4、トラックにはねられた
5、謎の空間
…………………。
………………………………………。
…………………………………………………………………。
(情報が足りな過ぎて訳が分からない!)
そう結論付けながら、まずは自分の体に異常がないかを確かめる。
「手も足も動く…走ったりしてもどこにも痛みがない…。なんでだ?本当に実は数十年たってた落ちとか…」
それにしては老けてない。そんなに時間は経過していないはずだ。
さらには筋肉も衰弱していない。であればなぜ怪我が残っていないのだろうか。
が、一つだけ心当たりがあった。それはすでに自分が死んでいてここは死者の世界であるということ。
「あー…もしかして、まじで俺…死んでる?」
『まーそんなところだよー』
「!?」
独り言に対しての返答がいきなり聞こえてきたため、真琴は体をこわばらせて周囲を警戒する。
『正確には死者の世界と生者の世界の狭間。まあ不可視の境界世界とでもいう場所かな~』
再び何もない空間に声が響く。
『生きている者にも死んでいる者にも見たいと来たいと思って来れるような世界ではないからねーここは。ここに来れるのは私たちに選ばれたちょ―――少ない者だけだから………てか君、ちょいと警戒心強すぎないかい?』
「……そんなこと言われても、訳も分からない空間に1人で、尚且つ知らない人に声かけられたら自然と警戒するでしょうよ?」
『そっかそっか!まだ君には姿が見えないんだった!ごめんごめん~』
なんだこの人。初対面なのにめっちゃフレンドリーだと思いつつ話を進めていく。
(ここがどこなのか、自分はなぜここにいるのか。俺にはわからないことが多すぎる。とりあえずこいつと会話して情報を引き出せればいいけど…)
『じゃあ君に見えるように変身するから…ちょっと眩しいから気を付けてね?』
そんな掛け声とともに、真琴の前方数メートルのところに強烈な光を放つ球体が出現した。
「ぐッッ……」
眩しいとは言っていたがこんなことは予想外だったため、とっさに目を塞ぐ。少しすると光は収まりを見せていき、光が完全に収まると光の球体が出現していた場所に、とても美しい顔立ちの人物がたっていた。
『はい!変身しゅーーりょーー!これで君でも私のことが見えるでしょ?』
現実離れをした美しさ。それが目の前に現れた人物を表すのに最適な言葉だと真琴は思った。髪は見事なまでの銀髪で、長さは腰の近くまであるロングヘアー。さらに目を引くのは真っ赤な瞳だ。見ているだけで、自分の心を覗かれている気分になる。
「あ、あなたは……」
『普通はさぁ…名前を聞く前に自分が名乗るのが基本でしょー?』
確かに失礼だったと思うのはまだ先のこと。目の前に現れた女性に目が釘付けとなり、他のことを考えることはできていないからだ。実際真琴が発したのもほぼ反射と同じようなものであった為、失礼なんて考えていなかったのだ。
彼女は私はいいけどと言いながら話を進めていく。
『では自己紹介を…。といっても紹介はすることはほとんどないんだよね。私は名前を持たない唯一無二の存在。全能の女神だよ。本当は名前なんてないけど…どうせならセラって呼んでくれないかい?暗道 真琴くん』
「!!なぜ…俺の名前を知っているんだ…?」
『だから、いったじゃないか。僕は全能の女神様だって。ほかにも、家族構成とか、好きなこととか…いろいろしってるよ~』
訳が分からない。情報収集が目的だったのに、次々に謎が増えていく。
(結局自分はなぜここに居るのか。なぜ女神…セラが自分の目の前に現れたのか。情報を集めるはずが…まるで真逆だ…)
真琴は心の中で悪態をついた。
『ここはね~私の管理している世界の一つで、簡単に言うとプライベートルームみたいなところ。君は子供を助けたときにトラックにはねられて死んじゃったんだよねー。で、それを見ていた僕が、さまよっていた君の魂をここに呼んだわけ』
「おいおい…心の中まで読めるのかよ…」
てか世界自体がプライベートルームってスケールが大きすぎて何とも言えない。
『どう?これで女神様ってみとめてくれた?』
「あぁ……認めるよ。」
この人は本当に女神様で、俺が今存在しているのもこの人のおかげなら、逆らわないほうがいいと判断した真琴は、女神の機嫌を取ることが重要だと判断した。
「ただ、気になったことがある。なぜ俺をここに呼んだんだ?誰でもいいってわけではないんだろう?」
ただ死んだ人ならば自分以外にもたくさんいるだろうし、その中で、なぜ自分が選ばれたのか疑問に思ったのだ。
『まー誰でもいいってわけでもなかったけど…。折角、頼み事するならいろんな知識を持ってて、面白い経験したことのある人にしようと思って~』
「面白い……経験?」
面白い経験とは何のことだろうか。この十数年、面白いと思ったことがほとんどなかった真琴は考え込む。セラはそんなことを無視するかのように淡々と告げた。
『そうそう!2年前に起こった君の大切な幼馴染の2人を連れ去ったあの事件のことだよ~』
俺にとっては忌々しいあの事件のことを、あろうことかこの神は面白いなんて言いやがったのだ。