第1話 プロローグ
9月10日文章を大部分変更しました。
それはあまりに突然の出来事だった。俺、暗道 真琴は高校の入学式が終わった後、幼馴染の山野 楓と親友の宮山 宗司の3人で帰路についていた。
この二人は俺の中で最も大切な友人でもあり、付き合い始めたのは幼稚園の時からで、なんだかんだ十数年の付き合いだ。
中学までは、三人ともクラスがバラバラになることもなかったから、毎日毎日話しながら生活していた。
そんな2人といつも通りバカみたいな話をしながら生活を送るのが真琴の中では最高に楽しく、幸せな時間だった。
「なぁなぁ!真琴と楓はなんの部活に入るか決めたのか?」
「私は料理部とかかな~!私って料理好きだし!しかも得意でしょ!合ってると思うんだよねー!」
「はあ?楓って料理めちゃくちゃ下手だろ!この前もらった謎の物体だって一口食った真琴が倒れたじゃねえか!」
「そ、それはたまたまだって~!次こそ失敗しないからぁ~!それは置いといて真琴はどうなのさ!」
「え?俺は…」
答えようと口を開いた瞬間、この三人の運命を大きく左右する出来事に巻き込まれたのだった。
並んで歩いていた3人の…正確には宗司と楓の2人の足元が急激に輝きを放ち始めたのだ。
「な、なにこれッ!」
「急に足元が光っ…いや吸い込まれて…!」
足元の光はただただ輝きを放つのではなく二人の体を吸い込んでいくようだ。
二人がそんな現象に巻き込まれている間、真琴は動かなかった。否、動けなかったのだ。
目の前で幼馴染2人が巻き込まれている現象に恐怖し、全身の筋肉が硬直。だが、それでも何とかしようという意識だけで真琴は全身に鞭を打ち、動き始めた。全ては2人を救うために。
「待ってろッ!今助けるから…どうにかこらえてくれ」
必死になって声をかけ続ける。が、無情にも2人の体は徐々に徐々に光に飲まれていく。
『何とか…何とかできないのかッ!使えそうなもの……何か掴めるような長いものが…!』
真琴の考えも上手くまとまらず、時間だけが過ぎていく。そんな中、宗司と楓から声がかかった。
「「真琴ッ!」」
「もう少し…もう少し頑張って!二人とも必ず助けて見せるから!」
結局使えそうなものが見つからず、2人のもとまで駆け寄り手を伸ばしたが、透明な壁にさえぎられているようで手を掴むことができない。
「!!?なんで…なんで届かないんだッ!」
真琴はただひたすらにその透明な壁の様な不可視のものを素手でたたき続ける。
すでに手はボロボロで周囲には赤い血が飛び散っている。
「くそッッッ!!!」
真琴はそんな悪態をつきながら、次に自分がすべき行動について考えた。素手で助けることは叶わず、使えそうな物もない。さらには手はボロボロだ。
(どうする……どうすれば、二人を助けられるんだ…!!)
心の中はそのことでいっぱいだった。
このままだったら、自分の大切な人たちがいなくなってしまう。
『この2人と一緒にいることだけを願い続けていたのに……。なんでこんなことに…。』
そんな焦りと恐怖を感じながらもひたすら考え続けた。
それでも尚、考えをまとめることができない。どうすればいいのか。答えが見つからないのだ。
そんな中、光の中の宗司から声をかけられた。目を向けるともう首しか見えない。
「なぁ真琴。楽しかったよな。中学のころとか。バカ騒ぎして先生に3人そろって呼び出し食らったりしてよ~」
「あったあった!でもあれってほとんど宗司のせいでしょ!」
急に始まった中学の話。真琴は最初なんでこんな話をしているのか全く分からなかったが、だんだんとその意味を理解し始めた。もう長くはもたないのだろう。
「馬鹿野郎!そんな話する暇があったら…!」
真琴は必死になって、叫んでしまう。それは、あきらめたように話し始めた宗司と楓に対しての怒りからだけでなく、大切な人を守ることさえできない自分の無力さに対する怒りでもあった。
そんなことを気にしないとも言いそうな宗司たちは笑って話しかけてくる。
「こんな時だから話すんだ。なんて言っても次はいつになったら会えるのかわからねえんだからな」
「そうそう!これっていわゆる転生みたいなものでしょ!漫画でよく見たりするやつ!だったらこの先、私たちが頑張ればまた会えるかもしれないじゃん!」
なんの確証もない話だ。普通に考えればありえない話だが、二人は限界を悟って嘘や方便を並べてくるのだろう。
気が付くと自分の目から涙がこぼれてきた。俺は、必死になって笑顔を作ろうと涙を拭い続けた。
「そうだよな…!また会えるように向こうで頑張って…来いよ……な」
「あははは…何その顔!」
「泣き虫にもほどがあるぞ…!」
「う…うるせ…えよ…」
だけど涙が止まるはずもなく、2人は俺の顔を見て苦笑いをした。それが目視できた最後の表情だった。
急激に輝きが増し、視界が戻った時には2人の姿はすでになく、かすかに残った輝きが空に昇っていく。
「あぁあぁぁぁぁぁぁァアァァッッッ!!!!!!!」
二人の姿が完全に消え、自分の心の中の何かが崩れ去っていく感覚を覚え、空に向かって大声で叫んだ。
真琴の記憶はそこで途絶え、次に目を覚ました時は見知らぬベッドの上だった。
そのあと聞いた話によると、真琴が意識を失い、倒れているところを通行人によって発見され、病院に運び込まれたそうだった。真琴の両親はずっと病室にいて、看病をしていたそうだった。
(どうやら俺は2日間も眠り続けていたらしい。)
その時にはすでに楓と宗司の行方が分からなくなったことが世間に広まっていた。
TVなどでも大きく取り上げられていたが、真琴はそのような外部の情報を知ろうとはしなかった。
あの出来事が現実に起こったことだということを改めて実感し、大切な人を本当になくしたんだと、絶望した。
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二人が行方不明となってから2年近くが過ぎようとしている。警察も全力で捜査をしていたが、1年近くの捜索もむなしく、1つの痕跡も見つからなかった。元々TVでも現代の神隠しとか言われているようだったし、よくもここまで捜査が続いたと逆に感心していた。
真琴のところにも話を聞きに来た人は多かったが、こんな非現実的なことを話しても信じてもらえるはずがないと思い「何も知らない。」で通し続けた。
楓や宗司の両親は真琴に対して強く言ってきたが、それでも知らないふりを続けた。
いつしか真琴はそんなことから逃げるように、家に引きこもるようになった。もともと、アニメやゲーム、ミリタリーなどに興味を持っていたようだが、事件の後からは、比べ物にならないほどにやりこんでいた。
インターネットなどを使うようになって少しずつ。本当に少しずつだが事件についても調べていたため世間でどんな風に話されているのかも把握していた。
すでに2年前の事件である。他の人々はほかの事件のほうに関心を寄せていく。人々の頭にはもう2年前の神隠しとされている事件について関心を持つ人間はいないのだ。
そんなある日のこと。
「………………喉乾いたな。」
そうつぶやくと部屋から出て、リビングに向かい冷蔵庫を開けた。
「スポドリすらないのかよ……。めんどくさいけど買いに行くか…。」
真琴はコンビニに向かうために適当な服を引っ張り出して、それを着込み何か月ぶりかに外出した。気が付いたらもう夏で、扉を開けると馬鹿みたいに熱い空気が流れ込んできて、一気に汗をかく。
「暑すぎて死にそう………。毎年こんなに暑かったっけ……?」
そんなことを考えながら歩いていると、横断歩道についた。やけに車どおりが多く、危ないな……などと考えながら信号待ちをしていると、左からボールが飛んできた。ピンクのゴム製のボールだ。ドッジボールで使えそうなボール。
「あっぶないなぁ………」
そんなことをつぶやきながらとボールが飛んできた方向を見ると、幼稚園生くらいの子供が走ってこちらに向かってきていた。
最初はそこまで気にしていなかった真だったがその子がボールを追いかけて車道へ飛び出していくところを視界の端でとらえた。
「何やってんだよッ!あいつ!!!」
真琴は叫びながら子供を追うと、タイミングが悪く、すぐ横からトラックが突っ込んできた。
とっさに子供を歩道側へ投げ飛ばし、自分もよけようとするが、引きこもっていた間にずいぶん体がなまったのだろう。間に合わずに、トラックと衝突してしまった。
体中の酸素がすべて抜け、酸欠のような感覚へ陥った。
『そこまで痛くない…。掠っただけだったのか…』
今、自分も置かれている状況を確認しようと目を開く。すると見えたのは道路に飛び散った赤い液体だった。
最初はトラックの積み荷かとも思ったが、時間がたつにつれ体が痛み、さらには指一本も動かせないことを自覚する。
(どう…なった…んだ?子…供は?俺…は…。)
かろうじて見える範囲に、自分が助けた子供がほぼ無傷でいることを確認し、自分の状況について
考え結論を出した。
(ぁあ…。こりゃ助からないわ)
自分の体は想像以上にボロボロだった。手足はもうビクとも動かず、さっきまで感じていた痛みも消えていた。
(これはもうダメだな…まあいいか、もう…生きてても楽しくもなんともないし)
そう結論付けると真琴は目を閉じ、抵抗することもなく、時の流れに身をゆだねた。
(今考えると最悪の人生だったな…。あいつら今どうしてんだろ…。できることならもう一度会って…………)
そんなことを考えながら真琴は意識を失った。
この事故によって真琴の人生は幕を閉じたと思われた。
だが、これこそが真琴の物語の本当の始まりだったのだ。
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Side ????
「あの少年…なかなか面白い人生を送ってねぇ…。ふふっ…。やっぱりこの子にしようかな…。」
そんな声が何もない白い空間にポツンと響いていた。