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策士達、張り切る

 王宮ではいつの間にか情報が錯綜し、右へ左への大騒ぎになりつつあった。

 主な貴族が集まった会議室で語られている内容は紅蓮華騎士団が命を弄ぶ非人道的な実験施設を運営していたとか、その実験施設で事故があり、実験動物が逃走し王都へと向かってきているとか、そもそもその事故自体が紅蓮華騎士団の反乱の一部で、他にも紅蓮華騎士団に友好的でない貴族を襲撃したとか、そういった反乱に乗じて土国や木国の侵攻が始まった等々。

 頭を悩ますクレイブとオロフを余所に、更なる伝令が入ってくる。


「申し上げます。民衆が王都から逃げようと各城門へ押し寄せているとのこと。一部の民衆が警備兵と衝突。暴徒化への恐れありとのこと」


「なんと」


「もはや悠長に構えている時間はありません。速やかに鎮圧軍の編成を行うべきかと」


「いや先に行うべきは情報を正確に把握することです。急いては事を仕損じると申しますれば」


「何を馬鹿なことを申す!すでに民衆の行動に影響が出ているのだぞ!」


「まずは治安悪化を防ぐべく警備の強化を」


「生ぬるい!暴れる者は武力で黙らせろ!」


「それこそ暴動が起きまするぞ!」


 貴族たちが一斉に騒ぎ立てる中、国王はクレイブを凝視する。

 クレイブは視線に気づき、力なく首を左右に振る。

 国王は浅く溜息をつくと深呼吸をし声を張り上げる。


「皆の者静まれ!」


 国王に視線が集まる。


「皆の国を思う姿勢、深く感謝する。だがここは民を第一に考えたいと思う。その為に皆の力と知恵を貸してほしい。宜しく頼む」


 一同一斉に国王に対して礼をとる。


「まずは民を落ち着かせるため状況を把握、そして危険を排除することだ。指揮は俺が取る」


 軽いざわめきが起こるが国王は右手を上げこれを制す。


「青薔薇騎士団を中心とし皆の私兵を借り入れたい。必要があれば青薔薇騎士団長の言は俺のものと思って指示を受けてくれ。まず手始めに各城門の民の安全を確保したい。これはクレイブを除いた四公爵に当たってもらう」


「お任せあれ」


「御意」


「仰せのままに」


 三人の公爵は国王に深く礼を取り退室。


「情報の確認も俺がやる。クレイブ、よいな?」


「もちろんでございます陛下」


「お前には対魔獣防衛の最前線に立ってもらう。すまぬな」


「滅相もございません。有事の際は私の忠義を存分にお見せ致しましょう」


「何事もないに越したことはないがな。では兵の準備を始めよ」


 貴族達が一斉にどよめく。


「何か意見でもあるか?発言を許可するぞ。忌憚なく申せ」


 ぴしりと空気が張り詰める中、一人の貴族が動きだす。


「恐れながら申し上げます。誠に信じがたいことではありますがアマビスカ殿下が所属する紅蓮華騎士団の反乱という情報もございます。なれば真偽定まらぬ中、そのお父上であらせられるクレイブ公に兵を持たせるのは信じがたき噂に拍車をかける可能性もあるかと」


「なるほど」


 国王はその言を一旦は受け入れる。


「そなたの意見はもっともである。確かにそう思う輩はいるだろう。だが俺の考えは少し違う。仮に紅蓮華騎士団が反乱を起こしたとしよう。であるなら旗頭は我が娘コニィアだ。そうなるとこれは単なる父と娘の親娘喧嘩となる。つまり良くある親子喧嘩に幼馴染らは付き合わされているに過ぎない。まぁ今も昔も我が娘に振り回されておるだけの平常運転とも言えよう」


なんとも言えない空気が漂う。

若干怒気を漏らしながら貴族は反論する。


「そ、そのような戯言では民は承服できますまい」


「子らの行き過ぎた行いを親が叱るのは当たり前だと思うが?」


「国家の一大事なのですぞ!」


「だからこそだ」


 国王の声音が鋭利なものに変わり、物騒な雰囲気があたりを包む。


「この一連の騒動、何者かによる軍事行動であることには間違いないだろう。だがこれが反乱であろうとなかろうと、現体制を維持するためには紅蓮華騎士団は味方でなければならない。敵対行為は敵の策に陥ることに繋がるだろう」


 要は紅蓮華騎士団が黒でも白と言い切るということだ。そのために手段は問わずと。

 国王の非情な覚悟は全員に伝わったようで誰からも意見は出ない。


「どうやら理解してくれたようだな。それでは公爵家以外の皆には魔獣との戦闘時による民の避難誘導をお願いしたい。民の不安に寄り添って行動を共にし略奪、暴力、いかなる犠牲も出さないように。有事の際は王旗のもとに集え。以上だ」


 国王は席を立つ。去り際にクレイブへ視線をよこす。

 クレイブはオロフと一緒に後に続く。


「あの中に敵はいると思うか?」


「特に違和感を感じた者は居ません」


「私もです」


「では信じるに足ると思うか?」


「確証が得られぬ限り当てには出来ぬかと」


「情報確認の優先はいかがされます?」


 国王は足を止め振り返る。

 クレイブもオロフも慌てて止まる。


「どうすればいいかな。二人に任せてもいい?」


 さっきまでの尊厳はどこへやら、困り切った顔で国王は弟と信頼する部下に問う。


「兄上、そのような態度は室内でお願いします」


「陛下、気づいていない貴族は少数派ですが体裁は整えましょう」


 兄弟そろって『えっそうなの?!』といった表情をオロフにする。

 そんな二人に呆れた溜息をつき話を続ける。


「国レベルで言うと敵の主攻は土。呼応するは金と水。目的は魔導技術による利益格差の是正といったところでしょうか。姫ないしは紅蓮華騎士団の喪失は魔導技術にとっても、この国にとっても大打撃となりますから」


「まずは三部隊の現状を把握。特に黒曜。何か仕掛けられている可能性が非常に高いです。柘榴は交戦中と思われ、敵の一手としてスタンピードが起こされたと考えて良いでしょう。そして瑠璃の行動によっては後から難癖をつけられる可能性が高いので、兄上にはこの瑠璃を保護して頂きたく存じます」


「具体的には?」


「ただ国王の指揮下にあるという事実だけで、敵の策謀は防げるかと。流石に国王である兄上の指示に難癖をつけるとは思えません。ここぞとばかりに王の威厳と慈悲を見せびらかしてください」


「こちらの理想とする形は大まかに三つ。クレイブ公とアマビスカ殿下率いる黒曜部隊が主攻として魔獣防衛にあたり敵を退けることが一つ。シュテルン率いる瑠璃部隊が陛下指揮のもと民を守ることが一つ。そして最後にコニィア姫率いる柘榴が敵の首謀者一味を捉えることです」


「兄上はまず王宮の広場を開放する指示をお願いします。影には既に三部隊の情報収集と住民の被害確認を指示していますので早急な誘導が必要となりましょう。次に黒曜部隊が何らかの妨害工作に嵌まり魔獣防衛にあてれない場合、青薔薇を代替えにします。そのため公爵家との連動が必須になりますので影を連絡係につけます。この辺りは時間との勝負です。最後に柘榴ですが、最悪の場合を想定すると戦力不足か敵の罠にはまり苦戦中かと思われます。そのため――」


「何をグズグズしておるか! 今こそ親の威厳を見せびら――国王の名のもとに平和を守り抜く時ぞ!」


 意気揚々と歩く親バカのおかげで気分が軽くなった二人は視線を交わし互いの武運を祈り、それぞれの現場へ移っていった。


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