遭遇
「嬢ちゃんもだけどよ、どうしたらそんなに長く魔導具を使えるんだ?」
「どうしてと言われても……」
「ヴァ―ノンさんが不器用すぎるんですよ」
肉を頬張りながら問うヴァーノンに焚火を弄りながら素っ気なく答えるアマビスカ。
クセニアは二人の間で困りながらスープを飲む。
三人は充分に魔導具を扱えるようになり軽い戦闘なら難なくこなせる。
近接特化のヴァーノン、後衛のクセニアを守るようにアマビスカは攻守を器用に行う。
今は索敵からの帰還途中で陽が落ちたため休憩をとっている。
「ヴァーノンさんが敵の注意を引いてくれるおかげで私はやりやすくなっていますが、あっちこっち動きすぎなんですよ。敵から向かってくるように仕向けられると体力を温存できるはずです」
「ってもな~。傭兵の時ももっぱら攪乱だったしな」
「得物も変わってるのですから一度どなたかに師事することも考えたらどうです?」
「そういえば鉱族に特殊な武闘家が居ると聞いたな」
「確かユリアンさんは龍脈士と仰ってました――実はユリアンさんから火魔術師の方に弟子入りしないかと誘われているんですよ。私はお願いするつもりです」
いきなりの発言による二人の呆けた視線を気にしたのか、スープを勢いよく飲み干し空になった器に視線を落としながらクセニアは話を続ける。
「子どもの時、私の故郷も魔獣に襲われ両親も犠牲になり王都の孤児院に移り住みました。田舎から来た私は全く馴染めず十歳の誕生日を待って傭兵ギルドへ逃げるように駆け込みました。冒険系も労働系も役に立たず、調査系でも特別な成果を挙げられた程じゃない。初めてなんです。こんなに認められたのは」
握る器に力が入りわなわな震える。ヴァーノンとアマビスカは黙って見守る。
薪の弾ける音が雰囲気を癒す。
「だからといって自信があるわけではありません。学んでも結局は役に立たない存在になるかもしれません。それでも、それでも私は――」
クセニアが顔を上げ決意表明しようとしたその時、クセニアの正面から地響きと咆哮が闇に轟く。
「嘘だろ!近い!」
ヴァーノンが叫び、アマビスカは即座に火のついた薪を音がした方に投げる。
遠ざかる光の中でさっと横切る影をクセニアは見逃さなかった。
「向かって左に何かが移動しました!素早いです!」
「俺が行く!二人は備えろ!」
ヴァーノンは籠手に魔力を込めながら走り出す。
「身体が動いちまうもんはしょーがねぇわな」
ヴァーノンの独り言は誰にも聞かれることはなかった。
「なぁにそうデカくはないだろうさ。近くにも索敵部隊は居るはず。派手に動けば問題ない」
「明かりを出します」
クセニアが杖を振りかざし火の玉を複数生み出す。
玉は回転しながら均等に間隔を広げ辺りを照らす。
「他に見当たらないな。ヴァーノンさんと合流しよう」
「見つけました!あっちです!」
「わかった。戦闘の合図を頼む」
アマビスカはヴァーノンの援護に向かう。
クセニアは杖を振り回し、火の玉を一つにまとめると空高く飛んでいき大きく弾けた。
一瞬の輝きを放ちながらも闇へと舞い散る火の粉を眺めながら杖を握る手に力が入る。
「それでも私は前に進むんだ。もう逃げないって決めたんだ」
自分に言い聞かすようにクセニアは呟きアマビスカの後を追う。
その姿を焚火だけがゆらゆらと優しく見送った。
アマビスカは後ろからついてくるクセニアの篝火にも注意しながら、闇夜の中にこだまする金属がぶつかり合うような音を頼りに走っていく。
「足止めは成功、後衛も大丈夫。対象は単独、奇襲はないはず」
可能性を考えながら走る。
少しだけ開けた場所でヴァーノンが何者かの体当たりを受け止めていた。
横から切り落とそうと勢いをつける。
「一気に仕留める!」
「アマビスカ!増援を!キメラだ!」
アマビスカは飛び込もうとした矢先の体制を無理やり抑え込む。
魔獣はアマビスカを確認すると相対する側の皮膚を逆立てた。
このまま突っ込んでいたら串刺しだったかもしれない。
「俺たちに出来ること――時間稼ぎだけか」
アマビスカの額を一筋の汗が流れていた。