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 痛い苦しい辛い悲しい哀しい切ない煩い喧しい憎い忌々しい嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌いきらいきらいっ!


 薬が切れ始めると襲ってくる色んな感情。今回も何とか我慢する。両手からも頭からも血が流れてる感じがする。いつもの事だが今回も相当暴れたようだ。


 痛む足で瓦礫と思われる邪魔な物体を払い除け大の字に転がる。いつも通り大きく深呼吸して唯一見える紫の糸を吸い込み痛みを和らげる。変貌した指は戻り、頭に生えた異物も消えていく。


 束の間の休息。

 どうせ暫くしたらまた薬を植えにやってくる。

 今度こそ今度こそ必ず殺してやる。今は少しでも傷を癒やして備えるんだ。


 何も見えない部屋の中で眼を閉じる。

 そうすればすぐそこに風に揺られる草花があり、草同士の擦れ合う音が聞こえ、両手を広げて抱き抱えようとする母親の顔がーー眼窩から赤い涙を流し口から血を垂れ流す母が映る。


 笑いかけてくる母。抱きしめてくる母。優しかった母。大好きだった母。


 俺が殺めた母ーー


 母は俺の頬を両手で優しく包む。何もない眼窩は俺の眼を見据える。ぽたりぽたりと母の血が俺を赤く染めあげる。その血を拭うように何度も何度も俺の頬を摩る。口を開くたびに血が降りかかる。そしてまた拭われる。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も


 これが俺の罰。永遠に続く罰。

 だけど母と繋がれるこの時間()は俺にとって救いでもある。俺が正気を保つ為の、俺が俺でいられる為に、俺の心を復讐で満たす為に。


「耐性がついてきたか。実に惜しい。もう少しで更なる高みへ登れたものを」


 すぐさま声に反応して飛びかかる。しかし手応えはない。後ろ手に捻りあげられ、地面に顔を押しつけられる。今回もまた何も出来なかった。首に鋭い痛みが襲う。身体の中に熱いものが流れてくる。今までとは違い、何度も何度も打ち込まれる。打ち込まれるたびに身体が勝手に跳ね上がるが、力づくで押さえつけられる。次第に身体の感覚も意識も薄れていく。


「これで最後だ。存分に味わえ」


 押さえつける力がなくなると身体が変わっていくのが分かる。身体全体が膨れ上がり、手足の爪は伸び、頭からは何かが生えてくる。喉と瞳から込み上げる感情のままに声なき声で叫び続ける。ガラガラと崩れ落ちる音と一緒に、血でなぶり描いた壁の呪詛が輝くのを見る。

 獣のごとき高揚感の中、知性ある生き物として最後の呪文()を発する。


 こんな世界なんて消えてしまえ。

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