英雄の復活
俺とヴァーノンさんの傷が癒えた頃、グレタ姉とオロフさんが木国から帰ってきた。グレタ姉は仕事モード以上の剣呑さで、オロフさんは感情を押し殺した冷酷さで俺とテリーを名指し。当然のようについてこようとするニアを真顔で制止。なんとなく見当はついたのでヴァーノンさんに目配せする。ヴァーノンさんは面倒くさそうに頭をかき追い払う仕草で返事をくれた。
「父さんは何て?」
「まだ報告していないの。あなた達の意見が聞きたくて」
そう話すオロフさんの冷たい視線がテリーを射抜く。テリーの生唾を呑み込む音がハッキリと聞こえた。
場所を移すため先導した二人の後についていく。テリーが小声で「バレたのかな」と呟く。それ多分違うと思うぞ。だが後でしっかり追及させてもらう。
「あなた達には戦争する覚悟がある?」
「「へ?」」
「親しい者たちと別れ、互いに争う覚悟がある?」
テリーと目が合う。お互い理解が追いつかず瞬きの回数が増えていく。
「これ何の問答?誰が誰と?わけがわからないよ」
「同感です。対象によってとしか答えられませんね」
グレタ姉はイラついたのか頭を掻きむしる。オロフさんが代わりに淡々と話を続ける。
「蒼月の行動理念は主に三つ。王の護衛、国内外の情報取集、不穏因子の抹殺です。その中で長い間その存在を追っている連中がいます」
オロフさんの静けさとは真逆にグレタ姉は珍しく呼吸を荒くして落ち着きない様子。身体全体で判断に迷っている心象を表現している。
「その連中を追い始めて間もなく十年になります。五年前に尻尾を掴みかけ、また五年をかけて姿を捉えました。今度こそ必ず積年の怨みを晴らすつもりです。これ以上、心に傷を負う犠牲者を作らない為に。子どもたちの未来を奪われない為に。あなたのように母と歩む未来を奪われないように」
テリーが俺を庇うように立ち塞がる。師であり敬愛するオロフさんに『もうやめろ』と食い下がる。そうか。ついに見つかったのか。母さんを殺した連中が。
「さっきの問いの答えが出ました。私は闘います。僕が僕を取り戻すために。戦争でも何でも構いやしない。復讐だろうがなんだろうが知ったことか。俺は俺の信じるもののために闘う。仮にそれが例え大切な友でも。かけがえのない仲間であろうとも。俺は闘う!闘って闘って闘い抜いて全部救う!誰も死なせない!誰も不幸になんかさせやしねぇ!それが俺のアマビスカ=レイオンの覚悟だ!」
オロフさんは静かに目を閉じる。
グレタ姉は泣いているのか悲しんでいるのかよく分からない表情で俺を見る。
そしてテリーは肩を震わせる。
たった一言だけ微かに聞こえた。
「おかえり俺の英雄」




