キズナ
村の復興が大方済んだところで一行は魔獣討伐へと赴く。
ある程度開けた土地で拠点を作り防御を固め、特異魔獣のテリトリーを確認した。
幸いなことに特異魔獣が出現してから日が浅いようで魔獣らの縄張り争いは続いている。
今のうちに力を蓄えた特異魔獣を仕留めれば、逃げ出した低級の魔獣はすぐに戻ってくるだろう。
そうすれば行き場を無くし飢えに狂った魔獣による人里への被害は抑えられるはず。
これまでも魔獣に襲われてはいるので根本的な解決にはなっていないが、少なくとも凶暴化している今よりはましだ。
「索敵によるとこの辺りは二等級ウルフ系、こちらでは二等級バイソン系、こっちでは二等級ベア系の縄張りだ。こいつらに対して一等級の特異魔獣キメラ系が縄張り争いを仕掛けている。この辺りの在来は上手く代替わりをしているようで在来の縄張り意識は強いみたいだ。可能ならば混乱を最小限にするため特異魔獣だけを仕留めたい。このことに関して鉱族の意見を聞きたい」
天幕の中、ミーチャが拠点区域周辺の簡易地図を指し示しながら話を進める。
地図には縄張り争いを確認した日付も記載されている。
「特異魔獣だけを発見できれば事は簡単です。ですが縄張り争いの真っ最中に遭遇した場合は非常に難易度が上がりますね。最悪の場合、敵意むき出しで意思疎通も出来ない魔獣と連携を組むことになるのでしょうから」
「二等級程度に後れを取るとは思えぬが、流石に二等級を殺さずに相手しながら一等級に対処するほど余裕はないわい」
ユリアンとインゴがそれぞれ述べる。
「魔獣同士の争いに発展させない……特異魔獣とだけ交戦する……そしてキメラ系……」
マテオが地図を見ながら独り言つ。
この見通しの悪い山奥では大きいとはいえ特異魔獣のみを探すことは困難だ。
交戦中の騒音がもとで見つけることになろう。
マテオの独り言を受け淡い期待を持ちながらミーチャは問う。
「鉱族の方々と我ら青薔薇の戦力差には大きな開きがある。青薔薇だけでは二等級すら抑えるのに手こずるだろう。では青薔薇を鉱族の手駒として有効活用することは可能ですか?」
ミーチャに力強く見つめられインゴは否定するように目を閉じる。
ユリアンが意を汲んだかのように話を始める。
「手駒という言葉にいささか違和感を感じますが、混成部隊として協力頂くことは吝かではありません。大前提として被害を最小限に抑えることを求めますが」
青薔薇の大損害を覚悟し陽動部隊もしくは壁として鉱族に指揮権を委ねる考えのミーチャとは逆に、ユリアンはあくまで盟友としての立場を求めた。
ミーチャは謝意を述べ考えを改める。
「この特異魔獣なんかおかしいですね。上手く言えませんけど行動に引っ掛かります」
一瞬の静寂をマテオが破る。マテオに視線が集中する。
「仮にこの周辺在来各種の遺伝子を持ち偶発的に生まれたキメラ系だとします。成長するにつれ縄張りを欲し他種族と争うことも分かります。ですが何故複数の種族と何回も争いを続けるのでしょう」
「単に一度の戦いでは決着がつかなかっただけだろう?」
「それはそうなんですけど……」
ミーチャの指摘に素っ気なく答え、マテオは地図をにらむ。
「たとえばここのバイソン系とここのウルフ系。バイソン系と争った翌日にウルフ系と争っています。それも隣接するベア系を避けるようにわざわざ遠回りをしてです。そしてまた翌日にウルフ系と争う。ベア系は移動中に起こった偶発的なものかもしれませんね」
「ちょっと待てください」
ユリアンが紙を取り出し日付順に整理する。
「確かに連続して同じ種族と争うことはしていないですね。こいつはおかしいです。縄張りを奪うためなら連続して同種族を襲うはず。何か理由があるのかも知れませんがそれよりも大事なことは『ベア系の縄張りを除いたバイソン系とウルフ系の通り道を見張れば特異魔獣のみと遭遇できる』という点です」
インゴとユリアンが視線を合わせ頷き合う。
「地の利を活かせるか確かめたい。鉱族は先に出るぞ」
「可能であれば例の三名も一緒にいいか? 邪魔になるだろうが経験を積ませたい」
「あれらは既に鉱族として扱っておる。任せておけ」
「索敵を再編し直します。ヴァーノンさんも居るので傭兵部隊から選抜しましょう」
「でしたら鉱族からも諜報に強い者を選びます。組み込んでください」
それなりの日数を共に過ごした結果か、鉱族と青薔薇騎士団の仲には強固な繋がりが出来上がっていた。




