護りたいその笑顔
「ーーで、ボコボコにされて再起不能の重体に至るっと。馬鹿なの?ねぇ」
コニィアはアマビスカの折れた左腕を勢いよくペチる。
アマビスカの苦悶する表情に生唾を呑み込み、もう一度叩こうとするが、コニィアの魔法で痛みが引いた右手でデコピン。これを撃退。
「イチャイチャは他所でやってくれると助かる」
「お姉ちゃん楽しそう」
ヴァーノンが溜息を吐きながら呆れた声をあげる。ヴァーノンの手当てをするモーナはクスクスと天使の微笑みをみせる。そんなモーナをヴァーノンは愛おしく頭をワシャワシャする。片目を瞑り嫌がる素振りを見せるが為されるがままだ。幼く見えるモーナに傷口を摩られるごとに痛みが和らぎ、ヴァーノンは時折光悦な表情を見せる。
「ヴァーノンさんこそ犯罪者みたいに見えるので、そうゆうヤツはやめた方が良いですよ」
「うるせぇほっとけ黙ってろ」
モーナもコニィアも何を言っているかわからない様子で同時に首を傾ける。答えるつもりはないアマビスカはモーナに優しい視線を送る。
「モーナも鉱族出身なのかな。確かにちっちゃ可愛いけど」
「私は木国由来っぽく感じるかな。大きくなったらグレタさんみたく美人になりそう」
「性格は似ないで欲しいよ。マジで。このまま清く正しく大きくなって頂きたいです」
「お前らシスコンも大概にしないとマインみたいな子に育っちゃうぞ?それは絶対に阻止だ。いいな?」
三人がお互いを視線で念押し。同時に頷く。
またしても置いてけぼりのモーナは首を反対に傾ぐ。
「ニアと違うけどモーナの回復方法ってやっぱり魔法扱いなの?」
「どちらかというとオド変質かな。外的要因にオドが反応して発動している魔術に近いと思う」
「外的要因ねぇ。クウといい絶対に許せねぇ」
ヴァーノンがイライラしながら拳を掌に叩きつける。動いちゃダメと可愛く叱るモーナをコニィアとアマビスカは優しく見つめる。
「五年前に比べると感情豊かになったよな。寧ろ子どもっぽくなって可愛さ倍増」
「愛に飢えてたんだと思うよ。いっぱい愛してあげよう。お母さん頑張る」
「お前らの子どもみたいに聞こえるからやめてくれ。お願い。俺から天使を奪わないでくれ」
三人とも大概である。
インゴの達人的な手加減により両者とも内臓系に支障はない。骨折を含めた外傷はコニィアの手にかかれば肉体強化に繋がり、モーナの手にかかれば精神的なケアに繋がる。『怪我してナンボの紅蓮華騎士団』と冗談か本気かわからないスローガンが信条となり訓練の士気が上がる。可愛いは正義ということだ。
モーナの回復手段は至極単純。掌で傷をなぞるだけ。文字通りの手当てで傷を癒す。掌からポーションが出ているかのように。肉体的にも精神的にも手だけではなくモーナ自身が特効薬と言っても過言ではない。レイニーが『組織の研究情報を入手できればメイド商売が可能となる』と本気混じりの冗談発言に端を発した一連の騒動は、手を握って日々の悩みや愚痴を聞く『癒し喫茶』として形を変え大繁盛だ。
「クウのように自分や家族に時限爆弾が埋め込まれていたら確かに逆らえないよな。インゴさんが積極的に動けないのもよく分かった」
「誰が敵で誰が味方か分からない。五年前の村での演説はこういうことだったんだな。俺は今でも覚えている。『戦士としての魂に誓え!死を恐れるな!未来のために戦え!死戦を求めるならその魂を喰らう』ってな。感動したし震えたよ」
ヴァーノンのインゴモノマネは全く似ていないがアマビスカは深く頷き同意する。
「私は嫌だな。誰にも死んでほしくない。戦いは、戦争は無い方がいいし、何が何でも生きる事を第一に考えて欲しいな」
ヴァーノンは頬をかき、アマビスカは苦笑い。
「俺達は大切なものを護るために戦う。その為の決意と覚悟だ。無駄死にはしないさ」
「だから死んじゃダメなんだって」
「わかりましたよ。騎士団長の仰せのままに」
ヴァーノンは座ったままで恭しく大げさに腕を使って礼を取る。コニィアは「もう」と呟きアマビスカに視線を送る。
「アービーもだからね。死なないように心がけて。作戦名は命大事にだよ」
アマビスカもヴァーノン同様にしっくりとした貴族の礼を取る。そのやり取りをモーナは静かに見守り、自分の手をマジマジと力強く見つめていた。




