情報収集その四 在りし日
インゴは倒れたまま起きあがろうともせず話し続ける。
「襲われた村には鉱族が多く住むという共通点があった。鉱族魔兵団に協力的で重要な支援拠点が次々と襲われていった。突発的な魔獣災害と結論され滅びかけた村に土国からの支援はなかった。気がつけば鉱族は一つの村にしか存在が確認されなくなった。そして遂にその村にも魔獣が襲ってきた」
インゴは両手の掌で目を覆う。何かを耐えるように小刻みに震える。
「鉱族魔兵団は襲ってくる魔獣を斬り続けた。何匹も何匹も異形なるキメラの魔獣を殺し続けた。襲い来るものも動くものが居なくなった時、あちこちで憤怒の叫びがこだました。儂もその一人じゃ。儂の目の前には虚な瞳が魔獣の軀から生えていた。どの魔獣にも部位は違えど人の痕跡が見られた。紅く染まった大地に横たわる儂達が斬り殺した夥しい数の魔獣達は救いを求めていたであろう仲間じゃった。そして儂達は壊れた。僅かな可能性を信じて家族を探しに行く者、復讐心に囚われた者、罪悪感にさいなまれる者。中には家族を質に取られた者もいる。五年前に彼奴らと行動を共にした連中じゃ。今も恐らく同じ境遇の連中は居るのじゃろうな」
インゴは落ち着きを取り戻し飛び起きる。
「儂が知っているのはここまでじゃ。後は主らの好きにせい」
「まだ終わってないですぜ旦那」
ヴァーノンはインゴの行手を遮るように構える。
「問いの答えをまだ聞いていない。あんたの抱えているドロドロしたもんはわかった。でもあんたがどうしたいか聞かせて欲しい」
思考が止まっていたアマビスカもヴァーノンに並んで剣を構える。
「コイツの言葉じゃないけど、少なくとも俺はあんたの手助けがしたい。一人で抱え込む馬鹿はコイツだけで充分だしカッコつけもコイツだけで充分だ」
「ちょっと後で話し合いましょうね。公爵家として命じます」
ヴァーノンは横目でアマビスカを睨む。ホントのことだろという呟きはアマビスカに届き妙な殺気が立ち上る。
「もう一度同じ問いを繰り返すよ。あんたは俺達を仲間だと思ってくれてるのか?あんたの望みはなんなんだ?」
インゴは無表情のまま答えず龍脈を身に纏う。闘気は土の鎧となりインゴを包む。
「俺達が弱いから?俺達じゃアンタの手助けにもならねぇってか?」
インゴは地面に片手を突く。ゆっくりと手を持ち上げながら土の棒を生成する。
「アンタに比べたら技術も経験もねぇさ。だけどなぁ、いつまでもウジウジしているアンタなんかにゃ負ける気がしねぇんだわ」
「同感です。私達は今ここであなたを超える。超えてみせる!」
ヴァーノンとアマビスカが勢い良くインゴへ詰める。
インゴはその姿に在りし日の戦友と自分を重ねて薄らと笑みを浮かべた。




