恋愛 友愛 母の愛
「そもそも恋も愛も感情の枠組み。感情の表現を正確に正しく表すなんて事は不可能なのです。今の二人の恋心も、先の戦友への友愛とも言うべきな特別な想いも恋愛感情でしょう。その恋愛を誠確かに表現できますか?」
王妃の前に香しい茶が注がれる。執事は一礼しその場を立つ。国王も席に着かず立ったまま講釈を拝聴する手前、王弟親子も立ったまま気まずい顔をする。
「私は戦場に立ったことは勿論ありませんが、ここ王宮内の女達による戦は毎日見かけております。ありえない、起こりえないと私は信じていますが、彼女らは理不尽な暴力に怯え、毎日毎日気が抜けない、それこそ命を削っての奉仕に不満なんて口に出せはしないのに、身分や権力というものは否応なく皆を苦しめる。そのような状況下で頼りとし、すがれるものは同じ境遇の仲間達との愛なのです。私はそれを好ましく、素晴らしいものだと思いますよ」
淡々と語りながらも視線は優しく二人の女官と小間使いを見守っている。
「私にできることは、彼女らの今を護り慈しみ愛し続ける事。邪な穢れから遠ざけ、思う存分に愛を育み、未来への糧として精一杯育って欲しい。あの子達が育てた愛はきっと、多くの人にさらなる愛と幸せをもたらしてくれることと信じています」
王弟親子は自然と目が合う。言葉はなくともお互い似た者同士。思考も似通っているため抱いた感情はただ一つ。
((どうするよ……これ……手に負えねぇ!))
国王は下を向き拳を握りながら身体を震わせる。
「うぉぉぉぉ!マチルダァ!素晴らしい!素晴らしいぞぉ!」
国王は涙を流しながら王妃の手を握る。
「俺は今までなんて愚かな人間だったんだ。そうだ。愛に男も女も関係ない。隔てるものは何もない。年も身分も、愛には関係ない。あるのはそう、ただ相手を想い、相手を労わるその気持ちだけだ。俺の民への愛も、娘への愛もいつかきっと幸せへと繋がっていくんだ!」
「あなた、私の話を理解していませんね?」
王妃は呆れながらも空いた手で優しく夫の頭を撫でる。そしてさっきからアイコンタクトで何かを押し付けあっている義弟親子へ話をふる。
「シュテルンの事もマインの事もコニィアの事も騒ぎ立てずとも時が解決するはずですよ。それよりも私はあなたの事が心配ですよアマビスカ」
「私ですか?」
「あなたには気にかける相手がいないのですか?」
「お戯れを」
マチルダは王妃としてではなく、義叔母として或いは母親代わりとして語りかける。
「カロリーネがあんな事になってから、あなたはどこか変わってしまったように感じます。他人と距離を置いて、本心を語らず、周りに合わせているような気がしてなりません」
「気のせいですよ。それに昔からニアに振り回されていたせいで、辞めた方がいいという僕の本心は届かず、一方的に好き勝手に行動するニアに合わせないと大変なことになってしまいますからね。叔母さんの勘違いですよ」
「そうだと良いのですが」
アマビスカは全力で作り笑いをし話は終わりだと言わんばかり。それを察したクレイブは戸惑うが何も言えない。
マチルダは叔母の雰囲気から一転し王妃の雰囲気を醸し出す。
「そういえば良くコニィア言っていました。なんでも紅蓮華騎士団には類い稀な知恵者がいるとか。そのものならこの一件、騎士団内の若者達による青春物語として仕立てあげられるのではありませんか?」
突拍子のない言動は流石ニアの母親だと改めて思ったアマビスカであった。




