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ほほえみ

 魔導具の適性試験が終わり最終的に残った者はアマビスカ、ヴァ―ノン、クセニアの三人だけとなった。

 実際は他にもいたが、ミーチャがインゴ(というより主にユリアン)と相談し、お互いの面倒事は無くすようにした結果少なくなった。

 鉱族側はお荷物を抱えて戦闘をする必要がなくなり、青薔薇騎士団は不慣れな戦闘をしないで済む。

 ろくな連携も取れないであろう支援要員など邪魔なだけという言葉によってミーチャは鉱族のツートップの信頼を勝ち取った。

 その信頼の上でアマビスカの懇願とインゴの遊び心によって三人だけは『個人的に』魔導具についての指導を受けることとなった。

 クセニアはユリアンを見返したい一心で、ヴァーノンは面白そうだという理由で流れに従った。

 アマビスカはインゴ、クセニアとヴァ―ノンはユリアンに指導を受けることとなり、実力が伴う場合のみ支援要員として組み込むこととした。


「小童、お主にはこの剣を貸し与える」


 インゴは一振りの剣をアマビスカに投げてよこした。

 飾りっ気のない剣ではあるが、鍔には不釣り合いな石が填めこまれている。

 その石から延びるように刃全体へと溝が入っている。


「柄頭にある魔晶石を奥に填めこむと柄から魔力を吸い取り魔法剣となる代物だ。試しにやってみろ」


 アマビスカは言われたとおりに柄頭を掌に勢いよく押し当てる。

 すぐさま柄が握った手を吸い込むような感触を生み鍔にある石が輝く。

 次第にその光は溝を伝って刃全体へと広がっていく。


「ふむ。時間がかかりすぎるな。属性干渉か」

「おそらく現在発動している属性が主属性でしょうね。課題は属性と出力の制御でしょう」


 ユリアンが近づきながら指摘する。


「そっちはどうじゃ」

「ノッポのお兄さんは籠手を着けて、お嬢さんは杖を使って魔力枯渇を繰り返させます」

「習うより慣れろじゃな」

「ここで出来ることはそれしかないです。二人とも類稀な才能の塊です。特にノッポのお兄さんは部分硬化もできますし。龍脈士であるパリスさんと火魔術師のミレーヌさんが居れば実戦想定の訓練が出来ますね」


 インゴの脳内に雄たけびを上げるパリスと無駄にポーズを決め込むミレーヌの姿が浮かび、掻き消すように頭を振る。


「ま、まぁレイオンにはレイオンのやり方があるじゃろうし、基礎能力向上で問題ないじゃろう」


 両手で構えたアマビスカの額に薄っすらと汗が出始めたころ刀身は輝きを増した。


「小童!目の前の岩を叩き切れ!」


 インゴの掛け声に条件反射で身体が動く。

 身長の倍はあろう岩は斜めに切断される。

 一太刀で剣は輝きを失い、アマビスカは疲労のため片膝をつく。

 インゴは切断面を指で触れじっくりと検分する。


「お主の主属性は金属性じゃろう。相克である火属性であの火力じゃ。使いこなせれば龍族の首も容易く落とせるであろうぞ」

「全く話が理解できません!」


 アマビスカは露骨に顔をしかめ説明を求めたが、インゴはユリアンの肩を叩きこの場を離れていった。


「今はただ魔力の流れを感じ取るよう意識してください。雷の手袋を身に着け、魔力が尽きるまで素振りでもしているのが良いでしょう」


 ユリアンは苦笑しながらアマビスカに指示を出す。

 予想通り彼は三人を受け持つことになった。



 インゴはその足でミーチャの元へと赴く。

 マテオから報告を受けていたミーチャは話を切り上げ、インゴと連れ立って鉱族の幕舎へと向かう。


「我が団員へのご指導、改めて礼を申し上げる」

「気にするでない。儂も小童には期待をしておる。場合によっては我らの部落にて鍛え上げても良いと思うておるぞ」

「おお!それは有難い。本人が望むのならお願いしたいと存じます。してお話とは?」

「他でもない。その小童の場合の事じゃ」


 鉱族の一人がインゴへ図が描かれた紙を渡す。

 その紙をミーチャに見えるように広げ話を始める。


「お主らレイオンは魔導に関して疎いとみた。適性者も適応者も少なすぎる。魔を身近に感じて過ごしておらんのじゃろう」

「確かに。ここ数年の間に著しい動きがありますが普通に生活しているうえでは関わることもありません」

「にも関わらず小童の潜在能力はとてつもないものじゃ。鉱族どころか土国(アスガルド)にも匹敵する者はおるまい。彼奴は何者じゃ?」

「何者と申されても……」


 インゴは頬をかき返答に困るミーチャを安心させるように笑顔をみせる。


「彼奴がどんな生い立ちでも好ましく思う気持ちに変わりはない。気質も剣筋も良く鍛え甲斐がある。じゃがこの潜在能力はありえないのじゃ。この図を見よ」


 インゴは五角形を形作るように五行が描かれその中を五芒星を描くように矢印を記載されている図を指し示す。


「小童の主属性はおそらく金属性じゃろう。この場合、両隣の水と土属性のいずれかを兼ね備える者はおる。そして反属性である木と火は普通であれば扱うことすら難しい。じゃが小童は火属性でさえ人並み以上に扱える。これがどういうことか分かるか?」


 インゴは真剣な眼差しでミーチャを見つめる。

 暗にアマビスカは稀有の存在でこの事が知れ渡ったら大事になると匂わす。

 ミーチャはその眼差しに答えるべく居住まいを正し返答をする。


「そこまで我が団員に配慮を頂き感謝いたします。先の相談といいこの件といいインゴ殿は信頼に足る人物とお見受けしました」

「そんな世辞はいらん」


 今度はミーチャが軽く微笑みを返し話を続ける。


「配下の報告によるとレイオン国内で不穏な動きが見受けられております。一部の者が他国と密約を結び利益を貪ろうとしているようです」

「ありそうな話じゃが儂らとどう繋がる?」

「最悪のケースはレイオン国内の魔術師を()()()、魔導具の開発と流通で財を成そうとしているかもしれません。お察しの通り今のレイオンでは魔導を扱える者は少ないでしょう。ですが今後は増えるかもしれません。だとしたら扱える者が中心となって今後の魔導具に関わる経済は回っていくでしょう。現在進行形で私腹を肥やしている輩にとって魔導を扱える存在は大変脅威な存在でしょうね」


 インゴは目頭を押さえ低く唸る。


「要するに主らの悪巧み連中と儂らの自慢したい連中が一緒になったというわけか」

「私からもお尋ねしたいのですが、なぜそこまでアマビスカを気にかけてくださるのですか?」

「単に儂のアイデンティティーの問題じゃ」


 インゴはそっけなく答える。

 ミーチャは笑顔を崩さずにいるが目は笑っていない。

 根負けしてインゴは話始める。


「あの手袋の大本を作成したのは儂の先祖じゃ。お主らの建国の祖といっても過言ではないレイオンと一緒にな」


 ミーチャは黙って話を促す。


「お主らの伝承ではどうか知らぬが、鉱族と闇魔法士レイオンとは密な関係にある。滅びる定めであった鉱族を救い、今でいう魔導という知識を与え魔導武具の開発を指示した。土国はその魔導武具の価値を認め鉱族を保護した。我々鉱族が生きながらえているのも闇魔法士レイオン、五つの属性を操りし者のおかげなのじゃ。そして小童も五つの属性を一応は操れる。魔法士ではなく魔術士ではあるが。――もう一度問う。彼奴は何者じゃ」


 緊張を解くかのようにミーチャは息を吐き問いに答える。


「なるほど。初代レイオン王と重ねておられたわけですか。内密にお願いしますが、彼は現王弟陛下のご子息、確かに初代レイオン王の血に連なるものです」


 インゴはそうじゃったかと一言つぶやき天を仰ぐ。


「なれば小童、アマビスカを預かれる見込みは薄いのう。じゃが我ら鉱族はアマビスカに出来うる限りの助力をするとここに誓おう」

「そんな大層なお約束をしても宜しいので?」

「これこそここだけの話じゃが、我ら鉱族は土国よりも闇魔法士レイオンを慕っておる。むしろ崇拝と言っても過言ではない。それ故に王族であるアマビスカを預かるわけにはいかぬのじゃ。下手をすると暴走してもおかしくはない。それこそ土国に矛を向けてもな。誠に惜しいわい」


 ミーチャは聞かなかったことに致しますと返答しそそくさと幕舎を後にした。



 幕舎を後にしたミーチャは話題になったアマビスカの様子を伺いにいく。

 そこでは三つ巴のじゃれ合いを呆れながら見守るユリアンの姿があった。

 逃げ惑うヴァーノンを追うアマビスカの剣からは炎が斬撃となってほとばしる。

 ヴァーノンは時に飛び込み前転をして回避し、直撃する炎は籠手で受け流す。

 クセニアはその二人を身構え狙いを定めながら杖をふるう。

 杖の先からは火の玉がポヨンと飛び出し地面を焦がす。

 たくさんある地面の焦げはクセニアを始点とすると複数の一直線が出来上がる。

 徐々に飛距離は伸びているようだ。

 地面を焦がすほどの熱量を持った火の玉が追いかけっこをする二人に当たったら大惨事になりそうだが、クセニアから一番遠くにある終着点からはまだまだ程遠いのでしばらくは問題ない。


「これは一応戦闘訓練ですよね?」

「見た目と結果は子どもの戦争ごっこかも知れないですが内容はとんでもなく高度のレベルですよ」


 ユリアンの態度と高レベルの内容という事が合致せず理解に苦しむミーチャを横目に見ながらユリアンは話を進める。


「まずはアマビスカさんから。彼が使っている剣は確かに魔法剣ですが普通は炎を飛ばせません。剣に内蔵されている魔晶石を媒体として発動するので、火属性であれば熱傷を追加で与える程度です。太刀筋がよほど良いのか、生命魔力(オド)が溢れているのか。案外両方かもしれませんね」

「例えるなら斬撃で生じる衝撃波が炎を纏うものですか?」

「そのようなものです。そして火属性は彼の苦手とする属性のはず。生命魔力だけを見ても人によっては是が非でも欲しがる逸材です。ヴァーノンさんは身体強化を無意識に行っているようですし、クセニアさんは生命魔力の練り上げに長けているようです。三人とも鍛えがいはあるでしょうね。私には荷が重いですけど」


 自分には関係ないし関わりたくないと含みを持たせた満面の笑みでミーチャに振り向くユリアン。

 天を仰ぎながらミーチャは最低でもインゴとユリアンの協力を取りつけることを念頭に、鉱族との友好関係構築を最優先事項とした。

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