表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/84

おかえり

「どーーん!っす」


「ふごぉっ!」


「ヨグ兄!」


 卵から飛び出した生き物は空中で回転、ヨーグに見事な跳び蹴りをくらわす。マインとアデレートの場所まで吹っ飛び、目を回しているヨーグの頬をマインは遠慮なく叩く。ヨーグはどこか嬉しそうだ。その様子から平常運転で異常がない事を確認すると、マインは立ち上がり、兎の姿をした亜人を観察した。


「また変なの増えた……ヨグ兄いけるよね?」


 もう少しと言う呟きには答えず身構える。アデレートも鋭い目つきで様子を伺う。


「ふむ。純粋な身体能力だけでも油断出来ないな。俺が行こう」


 アデレートが前に進む。

 ヨーグが剣を差し出すが首を振り、ぴょんぴょんとその場で跳ねる亜人に徒手空拳で相対する。


「行くっす!」


 亜人は一足飛びでアデレートに詰め寄る。

 拳を振るうも、アデレートは左手で受け流し、勢いを利用して体当たりをする。そのまま身体を捻り、綺麗な背負い投げをお見舞いする。


「うにゃぁ〜」


「さすがアデ兄!」


 マインが小躍りし喜ぶ。その様子をヨーグは地面に座したまま唇を尖らせアデレート達とその先でコソコソ行動しているコニィア達を眺める。


「どうする? 二回戦は俺とマインだけでやるか」


 コニィアはアマビスカを解放し、シュテルンの耳をもぎ取りそうな勢いで引っ張っている。


「もしかしたら少し厄介になるかも。ううん、手こずるようじゃないと困っちゃう」


 亜人を地面に押しつけて無効化しているアデレートは数には入れられない。

 さっきまでのコニィア達だったら二人でも何ら問題はない。だがこちらを見据えるコニィアの眼には強い闘志が宿っていた。


「その眼、その眼だよニア。恐れず自分を貫いて行動するその表情。私が憧れた、大好きなニアが戻ってきてくれた」


 ヨーグは胡座に肘をついて上目遣いでマインを見る。嬉しそうで、泣きそうで、どこか寂しそうなその表情を受け止めて瞼を閉じる。薄らと微笑を浮かべながら立ち上がり、剣を構える。


「可愛い妹のためにお兄ちゃん頑張っちゃう。俺の稽古はちぃ〜とばかりキツイぜ?」


 グダグダと駄弁っているコニィア達めがけてヨーグは走り出す。真っ先に対応したのは後衛のコニィアだ。


「私だってやれるんだから!」


 コニィアは唯一扱える火魔法でヨーグとの直線上の地面を燃やす。

 ヨーグが炎を跳び避けた所をアマビスカは魔銃で狙い撃つ。それをヨーグは剣で斬り返す。

 そうこうするうちにヨーグがいる地面が盛り上がり、マインの創生魔法生命ある土人形(ゴーレム)が発動する。

 同じくしてシュテルンは魔法式を展開。無数の木の矢を宙に浮かべ、先端に火をつけ火矢とする。

 火矢はゴーレムを盾としているヨーグを狙って発射される。火矢は飛んでいる内に矢全体を炎に変え、辺りを凄まじい熱気が包んでいく。


「こりゃたまげた。さっきまでとは全然違うな」


 ヨーグは距離を取り、火弾となった矢から逃げ惑う。

 その間にもアマビスカは火弾をものともせずヨーグを狙って斬り結び、魔銃を放つ。


「おいおいおいおい。嘘だろ。怖くねぇのかよ」


「ウチの魔法士を舐めないで頂きたい。当たらないと信じてるので」


「嘘つけ! ガッツリ当たってるじゃねぇか!」


 答えは簡単。

 火魔法を軽減する水魔法の保護がアマビスカを包んでいるため、当たっても相殺され大した事にはならない。


「この手数を操作出来るのかよ! 闇魔法士の称号は伊達じゃないってか?」


「お褒めに預かり光栄です!」


「ちょっ! テリー! 私の手柄!」


 これもシンプル。

 シュテルンは弾を生成して勢いよく飛ばす。

 それをコニィアが操作してヨーグを狙う。

 生成と操作をそれぞれが行う。クセニアとクウが得意とする省エネ戦法だ。

 息つく暇のないほど動き回るヨーグの足は限界を迎え、コニィアの寸止め操作ミスをまともにくらい昏倒に陥る。


「私を忘れちゃいないよね?」


 ヨーグが奮闘する間にマナを整え戦闘準備をしていたマインはゴーレムを従え、いばらの鞭をしならせる。


「もちろん忘れてなんかいないさ」


 アマビスカは魔銃でコニィアを狙い撃つ。

 何度も何度もゴーレムを盾にしてもアマビスカの容赦ない銃弾の雨によって土の塊へと再び戻っていく。

 アマビスカの無尽蔵のオドの前ではマインの体力では歯が立つはずもなく、マナ切れの末マインは戦闘不能に陥る。


「やっぱり護られるだけのお姫様じゃないじゃん。それでこそ私の好きなニアだ。おかえり」


 マインの呟きは誰にも聞こえなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ