胸のモヤモヤ
「まーた変なのが出てきたわね」
「すいません。うちの長老がご迷惑を」
「こちらこそ。うちの部隊長がお騒がせしまして」
そんなやりとりをするコニィアとマインに手を振るティターニアの足下では、シュテルンが両手を地面に突いて項垂れている。
その先にはグレンヴィルを講師としてアマビスカ、ヨーグ、アデレートが講釈を受けている。
「なんかさ、あの二人おかしくないかなぁ」
「アデレートさんとヨーグさん? いつも通り愛されてるじゃん」
先の神話語りにおいて「良く覚えていたね」「さすがマイン!可愛かったぞ!」とマインに駆け寄り褒め囃していた二人を思い出す。
「うちの愚兄じゃなくて。オタクの幼馴染だよ」
「んー、やっぱりそう思う?」
「朝からなんかギクシャクしてた。心当たりは?」
マインは昨晩の夜会、シュテルンの幼馴染に対する告白を思い浮かべる。
コニィアも同様、シュテルンを追ったアマビスカを思い出す。
「あると言えばある。ないと言えばない」
「なにその煮え切らない態度。ねぇニア。何回目か分からないけど、二人のことどう思ってるの? テリーもアービーもこれからの事を真剣に考えてる。悩んで悩んで苦しんでる。ニアは? ニアの二人に対する気持ちを聞かせてよ。ううん、私じゃなくて二人に。私にはその後で良いから」
マインはアマビスカを、そしてシュテルンを優しい瞳で追う。
再び視線をコニィアに戻した時は、その瞳には厳しさが宿っていた。
「もうお姫様でいられる時間は無いんだよ。第一王位継承者様」
マインはすれ違いざま、コニィアに本音を漏らす。
「グズグズしてると私が先に歩き始めちゃうよ。私と一緒に居るんでしょ!」
勢い良く叩かれた背中を摩ってマインの後ろ姿を見送る。
「あーあ。私の特別は相変わらず容赦ないや」
痛みがひくにつれ、マインに言われた様々なことが何度も何度もコニィアの頭をよぎる。
五年前の研究室で、ドレスの試着の場で、街中で、城門でーー。
マインはいつだってコニィアに問いかけ、答えを待った。親友のために、大切な仲間のために、そして意中の相手のために。
コニィアもまた、いつまでも今のままでいられるなんて思ってはいない。王位継承権第一位も他国からの婿選定も分かっている。
それでも何をするべきかだけが分からない。
ただ胸のモヤモヤだけが日々強くなっていく。
「私はホント何がしたいんだろう」
マインの後を追いグレンヴィル達のもとへ向かう。励ますように掌で包んだ卵が優しく揺れた。




