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太陽と月と闇

「なんでなの! 止まってよ! 止まれ! 止まれ! 止まれ! 止まれぇぇぇ!」


 コニィアはシュテルンの腹に空いた穴を押さえながら、髪振り乱して叫び続ける。幸い穴はコインほどの大きさで周りの肉を膨張させることで一応は塞げた。しかしいつもなら皮膚は広がり傷を覆い隠すように塞がるはずなのだが、きっちりと同じ大きさの穴のまま脈打つ肉を見せびらかしている。またコニィアが気を抜くとその肉の脈動は弱まり、圧で押さえていた血の勢いは増す。


「どうしてなんなのこれこんなの嘘だよ。大丈夫大丈夫きっと止まる何とかなる何とかさせる!」

生命(いのち)の樹々たる精霊よ。かの者を蝕む憂いを絶ちたまえ」

「ほう?」


 半狂乱でうわ言のように取り乱すコニィアとは対象に、どっしりと構えたグレンヴィルの詠唱で発現した羽の生えた小人のような生物が、警戒するように人型を大きく迂回しシュテルンの傷口の上をクルクルと旋回する。

 次第に傷口は塞がる気配を見せ、シュテルンの顔に生気が戻る。

 その様子を興味深けに人型は眺めながらほくそ笑む。


「小手先の呪とはいえ除けるか。面白い」


 人型は二発目を放つように指先へ魔力を集め出す。その魔力に呼応したのか、シュテルンのペンタグラムが暴れ出す。


 小人は驚きウロウロと飛び回る。そしてこれ幸いと、コニィアの杖の魔晶石へと溶け込んでいく。消え去ったせいで傷口は再び開きシュテルンの口から喘ぎ声が漏れる。コニィアは怒りを持って食いしばり血が流れる。


「この程度か。所詮は造物。飽いた」


 指先の魔力を宙に浮かせる。魔力はどす黒い霧を発生させる球へと変わっていき、雷鳴を轟かせる。


「ーーさせない」

「ふむ。何か言ったか小娘」

「あなたの思い通りになんてさせない!」


 コニィアは杖を構えて人型と向き合う。


「治癒魔法を妨害するあなたを倒せばテリーは助けられるはず。私は絶対テリーを助ける!」


 コニィアは杖に魔力を込める。纏わりつく嫌な霧を吹き飛ばすように杖から風が吹き荒れる。


「私は負けない。負けてられない。テリーも助けてみんなも護る!」


 杖を力強く握る。杖に刻まれた紋章術が強く発動し魔力を増大させる。コニィアにとってそれはどこか温かくて力強くもう感じられた。


「私は一人じゃない。素敵な仲間がいる。あなたなんかに負けないんだから!」


 コニィアは人型に向けて魔力を放つ。放った反動でコニィアは体勢を崩し後ろへ転げ回る。


 その魔力は人型の半身を穿つ。穿たれた人型は小さく笑いはじめ、残された片腕で髪をかきあげ笑いをおさえる。


「なるほど。太陽か。そしてそれは月か。なんと弱々しい。気が変わった。戯れに付き合うとしようーー我が眷属よ。我が声に応えよ」


 ペンタグラムが宙に浮き、魔法陣が展開される。展開された魔法陣からヒョウの様な亜人が現れた。ヒョウはシュテルンを一瞥して指を鳴らすとシュテルンの傷口は塞がりシュテルンの苦悶する表情が和らいだ。


「オセか。久しいな」

「お久しゅうございます我が主。何なりとご命令を」


 オセと呼ばれたヒョウは片足をつき礼をとる。


「四公を顕現させ闇たる器を用意せよ。太陽を陰らせても構わぬ。我は少し戯れるとしよう」


 ヒョウは頷き再びペンタグラムの中へと溶け込んでいく。このやりとりの間に人型の穿たれた部分は元に戻った。


「月よ。いつまで隠れておる」


 人型はコニィアの持つ杖を凝視する。痺れを切らし手を突き出し杖を引き寄せる。

 杖を突いて体勢を維持していたコニィアは盛大に突っ伏す。


「くははは! 何たる体たらく! このような月は見たこともない!」


 先程までの印象とは打って変わって、こちらを害する様子はない。それどころか旧友を嘲笑うような雰囲気にコニィアは共感すら覚えた。


「ふむ。月は月でも新月か。それでは我が手を貸すとしよう。そこな求道者」


 あわよくば再度封印を試みようと機を伺っていたグレンヴィルを名指しする。


「我が力を用いることを許す。月を顕現させよ。やり方はそなたが思うままで良い」


 グレンヴィルは警戒して動かない。


「この姿が怖いのか? いつの時代も人とは愚かなるものよの」


 人型は姿を変え、一匹の猫となった。


「おうそうじゃ。我としたことが名乗るのを忘れた。我はソロモン。七十二の柱を従える大いなる闇と呼ばれるものなり」


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